引っ越し・車の買い替え・転職。保険会社に伝えていますか|契約後の「通知義務」
引っ越しの手続きは、電気、ガス、水道、役所、それにネット回線。指を折って数えていくリストに、保険会社が入っていないことがあります。車を買い替えたとき、子どもが免許を取ったとき、仕事が変わったときも同じです。
保険は入るときの手続きだけで完結しません。契約したあとに暮らしが変わったら、保険会社に伝えなければならないことが決まっています。これを「通知義務」といいます。伝えないままにしていると、いざというときに保険金が出ないことがあります。
入るときの「告知」、入ったあとの「通知」
保険を契約するとき、健康状態や車の使い方などを申込書に書きます。これが告知義務です。保険会社が「これを教えてください」と聞いた項目について、事実をそのまま伝える義務のことをいいます。
通知義務は、その続きにあたるものです。告知した内容が契約したあとに変わって、しかもその変化によって事故や災害の起こりやすさが上がるとき。そのときは、保険会社に遅滞なく伝えなければなりません。保険料は「その使い方なら、この金額」という前提で計算されているので、前提が変われば金額の根拠も変わる、という理屈です。
- 告知義務……入るときに、正しく伝える
- 通知義務……入ったあとに変わったら、遅滞なく伝える
何を伝えるのかは、保険ごとに決まっています
「変わったことは全部連絡しないといけないの?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。通知義務の対象は、告知した項目のうち、保険会社が「変わったら教えてください」と指定したものだけです。日本損害保険協会が、保険の種類ごとに整理しています。
| 保険の種類 | 入るときに伝えること(告知事項) | あとで変わったら伝えること(通知事項) |
|---|---|---|
| 自動車保険 | 車の用途車種・登録番号・使用目的、記名被保険者の氏名や免許証の色、契約台数、前の契約の等級や事故の有無、ほかの自動車保険の契約 | 用途車種・登録番号の変更 使用目的の変更(日常・レジャー使用から通勤・通学使用に変わった、など) |
| 火災保険 | 建物の構造・用法、建物の所在地、ほかの火災保険の契約 | 建物の構造・用法の変更(住宅専用を改築して店舗併用にした、など) 家財を他の場所へ移したとき |
| 傷害保険 | 被保険者の職業・職種、同じ人にかけられたほかの保険契約 | 職業・職種の変更 |
並べてみると、それぞれ「保険料を決めた根拠」がそのまま並んでいることが分かります。車なら何にどう使うか。住まいなら建物が何でできていて、何に使われているか。傷害保険なら、その人がどんな仕事をしているか。
身近な例でいうと、在宅勤務をやめて車で通勤するようになった、テレワーク用に自宅の一部を店舗に改装した、事務職から現場仕事に変わった。どれも本人にとっては「保険とは関係のない変化」に見えますが、通知事項です。引っ越して家財を新居へ移したときも、火災保険では通知の対象になります。
伝えないままだと、どうなるのか
ここは保険法という法律に書かれています。契約したあとに危険が高まったのに通知がなかった場合、保険会社は契約を解除できる、というのが第29条(生命保険は第56条)です。ただし、いきなり解除されるわけではありません。法律は2つの条件をどちらも満たすことを求めています。
- その項目について「変わったら遅滞なく通知してください」と約款に書かれていること
- 契約者または被保険者が、故意または重大な過失によって遅滞なく通知しなかったこと
問題は、解除されたときにどこまで戻って効くのか、です。保険法第31条は、解除の効力は将来に向かってのみ生じると定めています。それなのに、危険が高まった時点から解除までの間に起きた事故については、保険金を支払う責任を負わない、とも書いてあります。つまり「解除されたあと」ではなく「変化があったあと」までさかのぼって効くということです。
ただ、救いもあります。通知しなかったことと、実際に起きた事故との間に因果関係がなければ、保険金は支払われます。傷害保険で職業の告知が実際と違っていても、休みの日に道を歩いていてボールが飛んできてケガをしたのなら、職業とは関係がないので支払われる。損害保険協会は、そういう例を挙げています。
解除できる期間にも区切りがあります。保険会社が解除の原因を知った時から1か月そのままにしていれば解除権はなくなり、危険が高まった時から5年たったときも同じです。とはいえ、これを当てにするような話ではありません。
じつはこちらのほうが、身近かもしれません
ここまでが法律に定めのある通知義務の話です。ところが実務でよく困るのは、通知義務そのものよりも、その隣にある契約内容の変更のほうです。自動車保険でいうと、次の3つ。
- 運転者の年令条件の変更(お子さまが免許を取った、など)
- 運転者の範囲の変更(本人限定から家族も運転するようになった、など)
- 車の買い替え
損害保険協会は、これらを保険会社に通知する必要があるとしたうえで、怠った場合には変更前の契約条件が適用され、保険金が支払われない場合があると説明しています。
年令条件が「35歳以上補償」のままの契約で、18歳になったお子さまが運転して事故を起こす。想像しやすい場面だと思います。契約の条件からいえば、その運転はもともと補償の外にあります。ご家庭の状況が変わる春先は、とくに見落としが起きやすいところです。車の買い替えについては、等級の引き継ぎともつながっています。
解除にはならないけれど、伝えておきたいこと
住所や連絡先が変わったときは、遅滞なく保険会社へ連絡することになっています。ただしこれは通知義務とは性質が違い、事故の起こりやすさが上がる話ではないので、連絡しなかったからといって契約が解除されることはありません。
その代わり、保険会社からの大事なお知らせが届かなくなります。満期の案内、更新の条件、制度が変わったときの通知。届かないまま気づかずに満期を迎える、というのがいちばん惜しいパターンです。
もうひとつ、車や建物を人に譲るときは、書面での手続きが必要になります。自動車保険では、約款や特約にもとづく権利・義務を譲り受ける方に引き継ぐ場合、書面で通知して承認を得ることになっています。火災保険で建物を譲るときも遅滞なく書面で通知が必要で、権利・義務を移すなら譲渡の前にあらかじめ申し出て承認を受ける、という順番です。ご家族の間で車や家を引き継ぐときは、ここを飛ばさないでください。
思い出すきっかけを、決めておく
通知義務を毎日意識して暮らす人はいません。現実的なのは、「このときは保険会社にも連絡」と決めておくことだと思います。
- 住まいが変わったとき……引っ越し、増築や改築、自宅の一部を店舗や事務所にした
- 車まわりが変わったとき……買い替え、使い方が変わった、運転する人が増えた
- 働き方が変わったとき……転職、職種の変更、通勤の手段が変わった
どれも、暮らしのほうが先に動いて、保険があとから追いつく形になります。手続き自体は電話1本や書面1枚で終わることがほとんどです。保険料が上がることもあれば、逆に下がることもあります。使う頻度が減ったのに以前の条件のまま払い続けている、というのも案外あります。
出典
- e-Gov法令検索 保険法(平成20年法律第56号)第29条・第31条・第56条・第59条
- 日本損害保険協会 損害保険Q&A「問19 自動車保険における告知事項や通知事項は、どのようなものがありますか。」
- 日本損害保険協会 損害保険Q&A「問59 火災保険における告知事項や通知事項は、どのようなものがありますか。」
- 日本損害保険協会 損害保険Q&A「問75 傷害保険における告知事項や通知事項は、どのようなものがありますか。」
※本記事は2026年9月6日時点の一般的な情報提供です。通知の対象となる項目、手続きの方法、変更後の保険料の取扱いは、保険会社や商品、約款によって異なります。ご自身の契約でどこまでが通知の対象になるかは、契約概要・重要事項説明書・約款をご確認いただくか、ご契約の保険会社や代理店へお問い合わせください。
「引っ越したとき、保険は何もしていません」。お話をうかがっていると、わりとよく出てくる言葉です。責める話ではなくて、暮らしが変わるときは他にやることが多すぎるのだと思います。証券をお持ちいただければ、いまの内容と現在の暮らしがずれていないか、その場で一つずつ確かめられます。売り込みより先に、いまの保険を一つずつ一緒に見直すところから。