認知症になると、ご家族でも保険の手続きはできません|元気なうちに登録できる3つの制度
- 判断能力が低下すると、給付金の請求も、解約や住所変更も、ご家族では手続きできません。契約内容を問い合わせても、本人以外には答えてもらえないのが一般的です。
- 生命保険会社には、元気なうちに登録しておける制度が3つあります。特約保険料は通常かかりません。
- 認知症保険は「診断されたら出る」とは限りません。要介護認定とセットの条件や、その状態が180日など続くことを求めるタイプがあります。
介護が必要になった原因の1位は、認知症です
厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2025年)によると、介護や支援が必要になった主な原因でいちばん多いのは認知症で16.7%。次いで高齢による衰弱15.6%、骨折・転倒14.6%と続きます。要支援ではなく要介護の認定を受けている人だけに絞ると、認知症は23.6%まで上がります。
人数はこれから増えます。厚生労働省の推計では、65歳以上で認知症の人は2022年の443.2万人から、2040年には584.2万人。認知症の手前の状態とされる軽度認知障害(MCI)、つまりもの忘れなどはあるものの日常生活は自立していて認知症とは診断されない状態を合わせると、2022年時点で65歳以上の約28%にあたります。
ただ、ここは落ち着いて見ておきたいところです。2012年の調査と2022年の調査を並べると、合計の割合は約28%でほとんど変わっていません。変わったのは内訳のほうで、認知症は15.0%から12.3%へ下がっています。
調査をした研究班も対象の地域も違うため、単純に比べられる数字ではありません。それでも、人数が増えるのは高齢の方そのものが増えるからで、なりやすさが年々上がっているという話ではなさそうです。
介護そのものにかかるお金と公的な制度については、公的介護保険から、現金は出ませんで詳しくまとめています。ここでは、認知症ならではの話に進みます。
ご家族であっても、請求も解約もできません
生命保険の給付金や保険金は、原則として被保険者本人が請求します。住所変更や解約といった契約に関する手続きは、契約者本人が行います。あたりまえのようですが、認知症でつまずくのはここです。
生命保険文化センターは、判断能力の低下で本人が自分の意思を伝えられなくなった場合、ご家族では給付金・保険金の請求も、保険契約に関する手続きも行うことができない、とはっきり書いています。同居していても、実の子どもでも、同じです。
もうひとつ、見落とされがちなことがあります。本人がどんな保険に入っていたか分からなくなったとき、配偶者やお子さまが保険会社に問い合わせても、契約者本人以外には教えてもらえないのが一般的です。保険があることは分かっているのに中身が確かめられない。そういう状態が起こります。
元気なうちに登録できる、3つの制度
こうしたときの備えとして成年後見制度の任意後見を思い浮かべる方が多いと思いますが、生命保険会社には、もっと手前で使える制度があります。あらかじめ登録するか、特約を付けておけば使えます。
| 制度 | できること | 決めておく人 |
|---|---|---|
| 指定代理請求制度 (特約) | 本人が認知症などで意思表示できないとき、代理人が本人に代わって保険金・給付金を請求できます。入院給付金・手術給付金・高度障害保険金・特定疾病保険金・リビング・ニーズ特約保険金・介護保険金や介護年金などが対象です(会社により異なります)。 | 契約者が指定した 代理人 |
| 保険契約者代理制度 (特約) | 契約者が意思表示できないときに、住所変更・解約など、契約に関する所定の手続きを代わりに行えます。 | あらかじめ指定した 契約者代理人 |
| 家族(情報) 登録制度 | 災害時や、高齢の契約者に連絡が取れないときに、保険会社が登録されたご家族へ連絡します。請求漏れを防ぐことにつながります。会社によっては、登録されたご家族が契約内容を照会したり、請求書類を取り寄せたりできます。 | 契約者が登録する 家族 |
大事なのは、上のふたつが別物だということです。指定代理請求人を決めてあっても、それでできるのは給付金の請求まで。解約や住所変更といった契約者の手続きには届きません。指定代理請求人については本人が請求できないとき、給付金は誰が?でも詳しく書いています。
そして、これらの特約保険料は通常かかりません。取り扱いの有無や中身は保険会社や商品で違うので、いま入っている保険が対象になるかは、保険会社に確認することになります。
指定したり登録したりしたら、その相手に伝えておいてください。伝えていなければ、いざというときに使われません。
備えている人は、20人に1人ほどです
生命保険文化センターが2023年度に行った調査では、判断能力が低下したときへの備えを聞いています。いちばん多い答えは「特に準備はしていない」で55.8%。半数を超えました。
「家族に自分の希望を伝えている」は34.4%。一方で「銀行・保険会社・証券会社の代理手続制度に登録している」は4.7%、およそ20人に1人です。「認知症保険への加入」は2.5%、任意後見制度は1.4%でした。
保険料がかからず、書類を出せば済む登録が4.7%にとどまっている。ここは、もったいない数字だと思います。
認知症保険は「診断されたら出る」とは限りません
そのうえで、商品の話です。認知症に焦点をあてた保険は、民間の介護保険の仲間として扱われます。給付の条件には、大きく3つの形があります。
- 日常生活動作について介護が必要になった場合
- 認知症と診断され、見当識障害等がある場合
- 公的介護保険で「要介護1以上」「要介護2以上」「要介護3以上」などと認定された場合
商品によって、3つすべてを求めるもの、組み合わせるもの、3つ目だけのものがあります。認知症に焦点をあてた保険では、認知症の診断と要介護認定の両方を求めるものと、診断だけで受け取れるものがあります。
見落としやすいのが、期間の条件です。上のひとつ目やふたつ目のタイプでは、その状態が180日など一定期間続いたときに受け取れる、という決め方をしているものがあります。診断された日にすぐ受け取れる、とは限りません。
逆に、軽度認知障害(MCI)と診断された時点で給付金が受け取れるものや、認知症にならなかった場合に一定年数ごとに予防給付金が出るものもあります。守備範囲は商品でかなり違います。
- どの状態になったら受け取れるか。診断だけでよいのか、要介護認定とセットなのか。
- その状態が続くことを求められるか。180日など、継続期間の条件があるか。
- 保険期間は終身か有期か。有期型は、期間が満了した後は受け取れません。
どれも、証券とパンフレットを並べれば確かめられることです。入るか入らないかを決めるのは、そのあとで構いません。
順番をつけるなら、保険を増やす前に、いま持っている保険をご家族が動かせる状態にしておく。そちらが先だと思います。
出典
- 厚生労働省「認知症の日/認知症月間(世界アルツハイマーデー/世界アルツハイマー月間)(令和8(2026)年度)」
- 厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」(PDF)
- 厚生労働省「認知症施策」
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況 Ⅷ 介護の状況」(PDF・表16)
- 生命保険文化センター エッセイ「家族による生命保険の代理手続き ~元気なうちに考えておきたいこと~」
- 生命保険文化センター「介護保険」(生命保険の種類・主契約の種類)
※本記事は2026年9月7日時点の一般的な情報提供です。指定代理請求制度・保険契約者代理制度・家族(情報)登録制度は、取り扱いの有無や名称、対象となる保険金・給付金の範囲が保険会社や商品によって異なります。認知症保険の給付条件も同様です。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。成年後見制度など法律にかかわるご判断は、専門家にもご相談ください。
「うちの親、どこの保険に入っていたかしら」。ご相談の入り口が、この一言のことがよくあります。証券が一枚あれば、指定代理請求人が決めてあるか、契約者代理や家族登録が使える保険会社かを、その場で一緒に確かめられます。ご本人がお元気なうちであれば、登録の書類を取り寄せるところまでご案内できます。売り込みより先に、いまの保険を一つずつ一緒に見直すところから。