預かり物の紛失、貼り紙では店の責任は消えません|場屋営業者の責任
- 商売の中で預かった物は、預かり料をもらっていなくても、商人に求められる水準の注意で保管する義務がある(商法595条)
- 旅館・飲食店・浴場などは、もう一段重い。預かった物がなくなったり傷んだりしたら、店が「不可抗力だった」と証明しない限り賠償する。預かっていない持ち込み品も、店の不注意なら賠償する(596条)
- 「責任を負いません」と表示しても、この責任は免れない。例外は現金などの高価品で、お客さまが種類と価額を告げて預けていなければ、店は責任を負わない(596条3項・597条)
- 施設の賠償責任保険は、預かった物の損害を基本の補償から外しているのが一般的。特約や受託者賠償責任保険で備える形になる
商売で預かった物は、ただでも注意の水準が高い
民法では、お金をもらわずに物を預かった人は「自分の物と同じくらいの注意」で保管すればよいとされています(659条)。知り合いの荷物を好意で預かるような場面です。
商売をしている人が、その商売の範囲で物を預かった場合は違います。商法595条は、報酬を受けないときでも、「善良な管理者の注意」で保管しなければならないと定めています。その立場の人に通常求められる注意のことで、「自分の物と同じくらい」より一段高い水準です。
サービスで預かっているだけだから、という理由で注意の水準は下がりません。
旅館・飲食店・浴場には、もう一段重いルール
商法596条は、お客さまに来てもらう場所(場屋)で商売をする事業者を場屋営業者(じょうおくえいぎょうしゃ)と呼び、特別な責任を定めています。条文が名前を挙げているのは旅館、飲食店、浴場の3つ。ほかにどんな業種が入るかは、個別に判断されます。なお、この596条から598条は、2019年4月1日施行の改正で、カタカナ交じりの文語体から今の言葉に書き改められた条文です。
分かれ目は、その物を預かったかどうかです。
預かった物は、クロークで受け取ったコートや、フロントに預けた荷物などです。なくなったり傷んだりしたとき、店は「不可抗力によるものだった」と証明しなければ、賠償の責任を免れません(1項)。ほかのお客さまの取り違えや持ち去りも、店の側で「防ぎようがなかった」と示せない限り、店の責任として残ります。
預かっていない持ち込み品は、席に置いたバッグや手元の傘などです。こちらは、店が注意を怠ったためになくなったり傷んだりした場合に、賠償の責任を負います(2項)。店の人が飲み物をこぼして、お客さまのバッグを汚してしまった。そんな場面です。
貼り紙では消えない責任と、高価品の例外
596条3項は、お客さまが持ち込んだ物について「責任を負わない」と表示していても、1項と2項の責任は免れないと定めています。貼り紙は、法律上の責任を消す道具にはならないということです。
一方で、例外もあります。597条は、現金や有価証券などの高価品について、お客さまが種類と価額を告げて預けた場合を除き、店は責任を負わないとしています。財布を入れたまま、何も言わずにコートを預けた。そんな場合、その高価品については店が責任を負わないのが原則です。
請求できる期間にも決まりがあります。預かった物を返した時(持ち込んだ物ならお客さまが持ち帰った時、全部なくなったならお客さまが店を出た時)から1年で、時効により消えます。ただし店の側が悪意だった場合は、この1年の決まりは使われません(598条)。
表示だけで責任はなくならない一方、高価品は申し出がなければ店の責任の外になります。貼り紙を出すなら「責任を負いません」より、「貴重品はお申し出ください」と伝え、申し出があった物は別に保管する。そのほうが、597条の組み立てに沿った使い方です。
施設の賠償保険だけでは、預かった物は外れがち
施設の賠償責任保険は、日本損害保険協会の説明によると、所有・使用・管理している施設の欠陥や、従業員などの仕事の遂行が原因の賠償を対象にしています。ところが複数の保険会社の約款を見ると、事業者が所有・使用・管理している物(いわゆる「管理財物」)を壊した、なくしたという賠償は、基本の補償から外されています。お客さまから預かった物は、この管理財物にあたります。
備え方は主に2つです。施設の賠償保険に、預かった物や来店したお客さまの持ち物を対象にする特約を付ける形。それから、預かり物を専門に扱う受託者賠償責任保険に入る形です。特約の名前や、対象になる物・ならない物の範囲は、保険会社や契約によって違います。施設の賠償保険で対象外になりやすいほかの場面は、工作物責任の記事の表にまとめています。
お店が確かめておきたい3つのこと
- 預かっている物の実態:コートや手荷物、傘、ベビーカー、修理や加工のために預かる品など。何を、どこで、どれくらい預かっているか
- 受け渡しの記録:番号札や預かり票で、「預かった物」と「持ち込まれただけの物」の区別がつくか
- 保険の特約欄:施設の賠償保険に、預かった物を対象にする特約が付いているか。付いていれば、支払いの上限と、対象にならない物の決まりも
出典
- e-Gov法令検索 商法 第595条〜第598条
- e-Gov法令検索 民法 第659条
- 衆議院 商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律(平成30年法律第29号)
- 法務省「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律について」
- 日本損害保険協会 企業のための保険ナビ「賠償責任のリスク」
※本記事は2026年9月時点の一般的な情報提供です。ある業種が場屋営業にあたるか、物を「預かった」といえるか、不可抗力にあたるかは、事情によって判断が分かれます。個別の法律判断は弁護士等の専門家にご相談ください。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。
「クロークで預かったコートがなくなったら、うちの保険で出るんだろうか。」施設の賠償保険に入っていても、預かり物まで補償されるかは、特約の欄を見ないと分かりません。預かっている物と今の証券を並べて、どこまで入っているかを一緒に読みます。売り込みの前に、まず今の契約を確かめるところから。
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