労災を使うと保険料が上がる?|メリット制の対象は一部の会社だけ

法人・事業の保険

「労災を使うと、会社の保険料が上がるんでしょう?」けがをした従業員の側からも、会社の側からも、よく聞く心配です。たしかに、労災の実績で保険料率が上下する「メリット制」という仕組みはあります。ただ、対象は一定の規模がある事業だけです。お店や事務所、工場のように続けて営む事業なら、従業員20人未満の会社は対象外。それを知らずに健康保険で済ませると、あとで本人にも会社にも負担が返ってきます。

保険料が上下するのは「メリット制」の対象だけ

労災保険料は、会社が1年間に払う賃金の総額に、業種ごとの労災保険率をかけて計算します。従業員の給料からは引かれず、全額を会社が負担します(労働保険徴収法第11条・第31条)。

この率を、会社ごとの事故の実績で上げ下げするのがメリット制です。連続する3年度のあいだに、仕事中の事故や病気で労災保険から出た給付と、その間の保険料を比べます。給付が少なければ率が下がり、多ければ上がります。幅は原則として最大40%です。

ただ、すべての会社が対象になるわけではありません。お店・事務所・工場など続けて営む事業の場合、まず従業員の数で決まります。

メリット制の対象になるかどうかの目安 メリット制の対象になるか(お店・事務所・工場など) 対象外 業種しだい 対象 20人未満 20〜99人 100人以上 災害度係数0.4以上なら対象 ※どの場合も、労災保険の加入から3年以上が条件 ※人数は、連続する3年度のそれぞれで満たす必要があります

20〜99人の会社では、「災害度係数」という数字で決まります。計算は、従業員数 ×(業種の労災保険率 − 1000分の0.6)。1000分の0.6は、通勤中のけがなどに充てる分として全業種に一律で含まれている率です。この値が0.4以上なら対象です。2026年度の労災保険率で計算すると、目安は次のとおりです。

業種(2026年度の労災保険率)20〜99人の会社が対象になる人数
卸売・小売、飲食店、宿泊(1000分の3)なし(100人未満は対象外)
その他の各種事業(1000分の3)なし(100人未満は対象外)
ビルメンテナンス業(1000分の6)75人以上
金属製品製造業・金属加工業(1000分の9)48人以上

たとえば飲食店なら、99人でも 99 ×(3 − 0.6)÷ 1000 ≒ 0.24 で、0.4に届きません。従業員の数は、各月末の人数を足して12で割った数で数えます。建設工事や立木の伐採(有期事業)は、人数ではなく保険料の額や工事の規模で判定する別のルールです(建設業の労災のしくみは「下請けのケガは元請けの労災」)。

対象の会社でも、知っておきたい2つのこと
  • 反映は2年後:たとえば2023〜2025年度の3年度の実績が、2027年度の労災保険率に反映されます。事故の年にすぐ上がるわけではありません
  • 通勤中のけがは計算に入らない:メリット制で数えるのは、仕事中の事故や病気の給付だけです(労働保険徴収法第12条第3項)。協会けんぽも、通勤中のけがで労災保険を使っても保険料は上がらない、と案内しています

健康保険で済ませると、あとで返すことになります

仕事中や通勤中のけがは、健康保険の対象ではありません(健康保険法第1条・第55条)。協会けんぽは、健康保険と労災保険のどちらを使うかを、本人も会社も選べないと説明しています。パートやアルバイトでも同じです(仕事と関係のない交通事故なら、健康保険は使えます。くわしくは「交通事故のケガでも、健康保険は使えます」)。

誤って健康保険で治療を受けると、協会けんぽが負担した医療費(7割から8割)の返還を求められます。協会けんぽは、けがで受診した人に負傷の原因を文書で問い合わせています。黙っていれば分からない、というものでもありません。

本人にとっても、労災のほうが手厚い仕組みです。労災の指定医療機関なら窓口で治療費を払わずに治療を受けられ、仕事を休んだときは4日目から賃金(給付基礎日額)の8割にあたる額が出ます。健康保険なら、窓口で原則3割を払うことになります。

休んだら「労働者死傷病報告」。出さなければ労災かくし

労災保険を使うかどうかとは別に、会社には報告の義務があります。従業員が仕事中などのけがで亡くなったり休業したりしたときは、労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を出します(労働安全衛生規則第97条)。

  • 休業4日以上、または死亡:遅滞なく
  • 休業1〜3日:1〜3月・4〜6月・7〜9月・10〜12月の区切りごとに、最後の月の翌月末日まで
  • 出し方:2025年1月1日から電子申請が原則。パソコンがないなどの事情があれば、当分の間は書面でも出せます

この報告をわざと出さないこと、うその内容で出すことを「労災かくし」といいます。厚生労働省は、労災かくしを犯罪だと明示しています。罰則は50万円以下の罰金で(労働安全衛生法第120条)、手続きをした人だけでなく、会社(法人)にも罰金が科されます(同法第122条)。

保険料を気にしてのかくしは、割にも合いません。厚生労働省の通達は、メリット制の対象事業場で労災かくしが見つかった場合、収支率を計算し直し、必要なら戻した保険料を回収するよう求めています(平成3年12月5日付け基発第687号)。

従業員がけがをしたとき、会社がすること
  • まず救護。病院では「仕事中(通勤中)のけが」と伝えてもらう
  • 休業したら、労働者死傷病報告を出す(4日以上は遅滞なく)
  • 労災の請求書に会社の証明を求められたら、すみやかに証明する。本人が手続きできないときは手伝う(労災保険法施行規則第23条)
  • 仕事中のけがで休んだ最初の3日間は、会社が平均賃金の60%を補償する(労働基準法第76条)

保険料より気にしたいのは、労災保険の外に残る部分

メリット制の対象になる会社にとっては、事故を減らすことがそのまま保険料を抑えることにつながります。労災を使わずに済ませても、保険料を抑える手段にはなりません。

そのうえで目を向けたいのは、労災保険から出ない部分です。休業の補償は賃金の8割までで、慰謝料は出ません。会社の安全への配慮が足りなかったとされれば、その差を賠償として求められることがあります(くわしくは「労災が下りても、給料の全部は戻りません」)。この部分には、労災保険の上乗せ補償や、会社の賠償責任を対象にした民間の保険で備える方法があります。

まとめ
  • 労災の実績で保険料率が上下するのは、メリット制の対象だけ。お店・事務所・工場などは、従業員20人未満なら対象外
  • 20〜99人は業種しだい。小売・飲食などは100人未満なら対象外(2026年度の労災保険率で計算)
  • 対象でも反映は2年後。通勤中のけがは計算に入らない
  • 仕事中・通勤中のけがに健康保険は使えない。使うと医療費の7〜8割の返還を求められる
  • 休業したら労働者死傷病報告。出さない・うそを書くのは労災かくしで、50万円以下の罰金(会社も対象)

出典

※本記事は2026年9月時点の一般的な情報提供です。労災保険率は年度によって改定されることがあり、2026年度の率で計算した人数の目安も変わることがあります。メリット制が自社に当てはまるかどうかや労災の手続きは、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家にご確認ください。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。

「うちの規模だと、労災を使ったら保険料は変わるのか。」そう気になったら、業種と従業員の人数、いま入っている保険を教えてください。労災保険で埋まらない部分がどこに残るかを、一緒に確かめます。保険をすすめる前に、いまの備えを一つずつ見るところから始めます。

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