労災が下りても、給料の全部は戻りません|労災保険で埋まらない2割と、会社に残る責任
「労災が使えるから大丈夫」。現場でよく聞く言い方です。ただ、労災保険から出るのは休んだ日の賃金の全部ではありませんし、慰謝料も入っていません。その差額がどこへ行くのか、というのがこの話の中身です。
労災から出るのは、4日目からの8割
従業員が仕事中のケガで働けなくなり、賃金を受け取れない。このとき労災保険から出るのが休業補償給付です。労働者災害補償保険法の第14条は、休んだ日の4日目から、給付基礎日額の60%と定めています。給付基礎日額は、おおまかにいえば直前3か月の賃金から計算した1日あたりの額です。
これとは別に、休業特別支給金というお金があります。労働者災害補償保険特別支給金支給規則の第3条で、こちらも4日目から、休業給付基礎日額の20%と決まっています。申請して受け取る形です。
- 休業補償給付:4日目から、給付基礎日額の60%(労災保険法14条)
- 休業特別支給金:4日目から、休業給付基礎日額の20%(特別支給金支給規則3条)
- 合わせて8割。残りの2割は、労災保険からは出ません
最初の3日間は、会社が払います
どちらも「4日目から」でした。では最初の3日間は誰が負担するのか。労働基準法の第76条が、療養のため働けず賃金を受けられない場合に、使用者は平均賃金の60%の休業補償を行わなければならないと定めています。同法75条では、療養そのものの費用も使用者が負担するとされています(実際の治療費は労災保険の療養補償給付でまかなわれます)。
3日分と聞くと小さく見えますが、ここは労災保険が動かない区間で、会社の義務として法律に書かれている部分です。
慰謝料は、労災からは出ません
ここが一番見落とされやすいところです。労災保険は決められた補償を行う制度であって、損害賠償そのものではありません。ですから慰謝料は労災保険の給付に含まれていません。賃金の残り2割も同じです。
その差額を、従業員が会社に請求できる場面があります。根拠になるのが労働契約法の第5条で、使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとすると定められています。いわゆる安全配慮義務です。会社側の配慮が足りなかったと判断されれば、労災保険で埋まらなかった部分の賠償を求められることになります。
この「労災保険では埋まらない部分」に備えるのが、労災の上乗せ補償や、使用者賠償責任を対象にした保険です。労災保険が公的な土台で、その上に会社が自分で積む部分がある、という二階建ての形になります。
通勤中のケガは、経路と方法で変わります
労災保険法7条は、給付の対象として業務災害のほかに通勤災害を挙げています。ただし同条は通勤を、就業に関して住居と就業の場所との間などの移動を合理的な経路及び方法により行うことと定義し、業務の性質を有するものを除いています。
経路を外れたり移動を中断したりすると、その間とその後は通勤として扱われません。日用品の買い物のように、日常生活上必要な行為をやむを得ない事由で最小限度に行う場合は例外とされていますが、線引きは細かく決まっています。従業員から「寄り道して転んだ」と相談されたときは、自己判断せず労働基準監督署に確認するのが確実です。
- 労災の休業補償は4日目から。給付60%+特別支給金20%で、賃金の8割
- 残り2割と慰謝料は、労災保険からは出ない
- 最初の3日間は、労基法76条により会社が平均賃金の60%を補償する
- 安全配慮義務(労働契約法5条)を問われれば、埋まらない部分の賠償が会社に来る
- 通勤災害は合理的な経路・方法が前提。逸脱や中断のルールがある
出典
- e-Gov法令検索 労働者災害補償保険法 第7条・第14条
- e-Gov法令検索 労働者災害補償保険特別支給金支給規則 第3条
- e-Gov法令検索 労働基準法 第75条・第76条
- e-Gov法令検索 労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮)
※本記事は2026年9月1日時点の一般的な情報提供です。給付の要件や金額の計算には細かい定めがあり、個別の認定は労働基準監督署の判断によります。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。個別の法律判断については弁護士等の専門家にご相談ください。
「労災に入っているから、そこは大丈夫」で止まっている会社は少なくありません。埋まらない2割と慰謝料の部分を、どこまで会社で見るのか。従業員数と仕事の中身をうかがえば、いま抜けている範囲をその場で整理できます。まずは現状を一つずつ確かめるところから。
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