労災保険法の改正は2027年4月から|会社に関わる4つの見直し
4つの見直しと、それぞれの施行日
改正の中身を、会社に関わりの深いものから並べると次の4つです。
| 見直し | 中身 | 施行日 |
|---|---|---|
| 遺族補償年金 | 夫だけにある年齢などの条件をなくす。遺族1人の年金額は一律175日分に | 2027年4月1日 |
| 請求できる期間 | 脳・心臓の病気や精神疾患などは、療養・休業などの請求期限を2年から5年に | 2027年4月1日 |
| 特別加入の団体 | 団体の要件を通達から法令へ。国が改善を命じられるように | 2027年4月1日 |
| 小規模な農林水産業 | 任意加入だった個人経営の一部も対象に | 政令で決める日(2031年4月1日とする案) |
このほか、義肢の費用などを支給する「社会復帰促進等事業」の決定に不服があるときの申立て先が、労災保険の給付と同じ窓口(労働者災害補償保険審査官・労働保険審査会)にそろえられます。
妻を亡くした夫も、年齢を問わず受け取れるように
遺族補償年金は、仕事中の事故や仕事が原因の病気で亡くなった人の収入で暮らしていた家族に、労災保険から出る年金です。国民年金や厚生年金の遺族年金とは、別の制度です。
いまのルールでは、妻は年齢を問わず受け取れます。ところが夫は、妻が亡くなった時点で55歳以上か、一定の障害の状態になければ受け取れません。55〜59歳のときは、受け取る権利があっても60歳になるまで支給が止まります。改正後は、この夫にだけある条件がなくなります。
遺族が1人のときの年金額も変わります。いまは給付基礎日額(原則として、事故の前3か月の賃金を日割りにした額)の153日分で、55歳以上か一定の障害の状態にある妻だけが175日分でした。改正後は、誰が受け取る場合も175日分です。給付基礎日額が1万円なら、年153万円だったところが年175万円になる計算です。
ただし、2027年3月31日までに亡くなった場合、受け取れる人の範囲や順位は改正前のルールのままです。また、2027年3月までの期間の年金額も、改正前の額で計算されます(改正法附則第2条)。
過労やメンタルの病気は、請求の期限が5年に
労災保険の給付は、請求しないまま時間がたつと、時効で受け取れなくなります。いまは、治療費にあたる療養補償給付や休業補償給付、葬祭料、介護補償給付が2年、障害補償給付や遺族補償給付が5年です。
改正後は、仕事が原因かどうかをすぐには判断しにくい病気として政令で定めるものに限って、2年だった給付も5年になります。厚生労働省が想定しているのは、脳・心臓の病気、精神疾患、石綿(アスベスト)による病気です。2026年9月8日の審議会に示された案では、長時間の過重な仕事による脳・心臓の病気、強い心理的な負担による精神障害、中皮腫や肺がんなど石綿による病気が挙がっています。政令は、2026年9月時点ではまだ決まっていません。
会社に直接かかわるのは、労働基準法の災害補償も同じように延びる点です。労働基準法には、仕事でけがや病気をした従業員に対して会社が負う補償の義務があります(労災保険から出ない最初の3日間の休業補償など)。この請求権も、同じ病気については2年から5年になります。
- 2027年4月1日より前に生じた病気は、これまでどおり2年です(改正法附則第5条・第9条)
- 脳・心臓の病気の労災認定では、発症前の数か月の時間外労働が大きな判断材料です。請求が数年後に来れば、発症前にあたる数年前の勤務の記録を求められることがあります
- 賃金台帳など労働関係の重要な書類の保存期間は、法律上5年、当分の間は3年です(労働基準法第109条・第143条)。保存の期間より、請求できる期間のほうが長くなる病気が出てきます
一人親方の加入団体と、小さな農林水産業
社長や一人親方は、そのままでは労災保険の対象外で、「特別加入」という仕組みで入ります(くわしくは「社長がケガをしても、労災は下りません」)。このうち一人親方などは、国の承認を受けた団体(特別加入団体)を通じて加入します。
この団体の要件は、これまで通達などで決められていました。改正で法令に書かれ、労災保険の事務や災害を防ぐ活動をきちんと行えることなどが要件になります。国は団体に業務の改善を命じることができ、従わなければその団体の保険関係を消滅させることもできます(すでに承認を受けている団体は、2027年4月1日に新しい法律のもとで承認を受けたものとみなされます)。一人親方に仕事を頼んでいる会社は、相手がどの団体で加入しているかを一度確かめておくと安心です。
もう一つは農林水産業です。労災保険は、労働者を使う事業には原則としてすべて適用されます。ただ「当分の間」の特例として、個人経営の小さな農林水産業の一部は、入るかどうかを選べる任意適用でした。改正でこの特例がなくなります。対象は次の事業です。
- 農業:個人経営で、常時使う労働者が5人未満の事業(事業主が農業の特別加入をしている場合を除く)
- 林業:個人経営で、労働者を常時は使わず、年間の延べ人数が300人未満の事業
- 水産業:個人経営で常時5人未満の、小さな漁船による漁業など
施行は公布から5年以内に政令で決める日で、2026年9月8日の審議会には、2031年(令和13年)4月1日とする案が示されています。
変わらないのは、労災保険の外に残る部分
今回の改正で、労災保険から出るお金は一部で手厚くなります。それでも、慰謝料が出ないことや、休業の補償が4日目からの8割にとどまることは変わりません。会社の安全への配慮が足りなかったと判断されれば、こうした部分の賠償を求められることがあるのも、これまでどおりです(くわしくは「労災が下りても、給料の全部は戻りません」)。
勤務の記録をきちんと残すことと、起きたあとの備え(労災保険の上乗せ補償や、使用者賠償責任を対象にした保険)。改正は、この両方を見直すきっかけになります。
- 2026年7月10日成立・7月17日公布。施行は一部を除いて2027年(令和9年)4月1日
- 遺族補償年金は、夫だけにある年齢などの条件がなくなり、遺族1人なら一律175日分に
- 脳・心臓の病気や精神疾患などは、療養・休業などの請求期限が2年から5年に(2027年4月1日以後の病気から)
- 特別加入団体の要件が法令に。小規模な農林水産業の任意適用は廃止へ
- 慰謝料や休業の残り2割など、労災保険の外に残る部分は変わらない
改正のあとも、慰謝料や休業の残り2割は労災保険の外に残ります。いまの契約でどこまで埋まっているかは、保険証券を見れば確かめられます。
出典
- 厚生労働省 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第60号)について
- 厚生労働省 同法の概要(PDF)
- 厚生労働省 同法の法律条文(PDF・附則第1条〜第9条)
- 厚生労働省 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律の公布について(令和8年7月17日付け基発0717第2号・PDF)
- 厚生労働省 第131回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料(2026年9月8日)
- 厚生労働省 同部会 資料1「関係政省令の改正等について」(PDF)
- 厚生労働省 脳・心臓疾患の労災補償について
- 厚生労働省 脳・心臓疾患の労災認定(パンフレット・PDF)
- e-Gov法令検索 労働者災害補償保険法
- e-Gov法令検索 労働基準法 第12条・第109条・第115条・第143条
※本記事は2026年9月時点の一般的な情報提供です。改正法の施行に必要な政令・省令は、2026年9月時点で審議会での検討が続いており、対象となる病気や施行日の案は変わることがあります。個別の労災請求や労務管理は、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。
「改正のことは分かった。でも、うちの労災への備えはいまのままでいいのか。」そう感じたら、従業員の人数や仕事の中身、いま入っている保険を聞かせてください。労災保険で埋まらない部分がどこに残るかを、一緒に確かめます。保険をすすめる前に、いまの備えを一つずつ見るところから始めます。