「社長にもしも」のとき、会社に最初に来るのは請求書です|個人保証と当面の運転資金
借入の個人保証は、亡くなっても消えません
中小企業の借入では、社長個人が連帯保証人になっていることがよくあります。この保証は、社長が亡くなったからといって白紙にはなりません。民法896条は、相続人が「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています。プラスの財産だけでなく、保証の義務も引き継がれるのが原則です。
つまりご遺族は、会社の株式と一緒に、会社の借入に対する保証も受け取ることになります。ここを知らないまま相続の手続きが進み、あとから残高を見て驚く、ということが起こります。
もっとも、この状態を放っておかないための仕組みもあります。「経営者保証に関するガイドライン」には、2019年12月に事業承継に焦点を当てた特則が加わりました。前の経営者と後継者の双方から保証を取る「二重徴求」は原則行わないこと、前経営者の保証契約は適切に見直すこと、などが定められています。
※ガイドラインは法律ではなく、金融機関と借り手の自主的なルールです。当然に保証が外れるわけではないので、実際の扱いは取引先の金融機関にご確認ください。
売上が止まっても、支払いは止まらない
社長が営業も見積もりも決裁もしていた会社ほど、その一人が抜けたときに売上が急に細ります。一方で、従業員の給与、仕入代金、家賃、リース料、社会保険料は、これまでどおりの日に出ていきます。
さらに、取引先や金融機関は「この会社、続けられるのか」をしばらく様子見します。新規の与信が止まったり、支払サイトを短くされたりすることもあります。会社が傾く理由は、赤字そのものより手元の現金が尽きることのほうが多い、という話はここにつながります。
- 借入に個人保証が付いているか。付いているなら、いくら残っているか
- 連帯保証人はご自身だけか。ほかにご家族や役員が入っていないか
- 売上がゼロになったとして、いまの現預金で何か月もつか
保険にできるのは、時間を買うことです
会社を契約者・受取人にした生命保険は、社長に万一のことがあったとき、会社にまとまった現金が入る仕組みです。これで事業が立て直るわけではありません。できるのは、次の一手を決めるまでの時間を確保することです。
| 入ってきたお金の使い道 | 考え方 |
|---|---|
| 当面の運転資金 | 給与・仕入・家賃など、止められない支払いの数か月分 |
| 借入の返済 | 返済して保証の負担を軽くする。金融機関との相談が前提 |
| 死亡退職金・弔慰金 | ご遺族の生活と、相続の場面での納税資金にも関わる |
| 後継者が動くための資金 | 人の採用、取引先への説明、体制の立て直し |
金額の目安は、会社の規模ではなく「止められない支払いの月額 × 立て直しに要る月数」から逆算するとブレません。そのうえで、借入残高と個人保証の額を足して考えます。
社長に万一のことがあったとき、会社に最初に届くのは請求書です。個人保証は相続で消えず、支払いは止まりません。保険は、判断するための時間をつくる備えとして考えるほうが話が早く進みます。まずは保証の有無と、現預金の持ち月数を数えるところからです。
出典
- e-Gov法令検索 民法(第896条 相続の一般的効力)
- 中小企業庁 経営者保証
- 中小企業庁 事業承継に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則が公表されました(令和元年12月24日)
- 経営者保証に関するガイドライン研究会 事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則(令和元年12月)
※本記事は2026年9月時点の一般的な情報提供です。保証の扱いは金融機関との契約によって異なり、相続の手続きや税務の判断は個別の事情で変わります。実際のご対応は金融機関・税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。
「うちの借入に個人保証が付いていたか、正直あやふや」という社長は珍しくありません。契約書を一緒に見て、保証の有無と残高、それに対していまの備えが足りているかを確かめるところからお手伝いします。売り込みより先に、いまの状態を一つずつ確認するところからで結構です。