同じ仕事でも、守られ方が変わります|個人事業と法人で違う3つのこと

法人・事業の保険

「法人にしたほうがいいんですかね」。よく聞かれますが、税金や信用の話は税理士さんの領分です。ここで書くのはもうひとつの軸、もしものときにお金がどこから出るかという話です。同じ商売をしていても、個人事業と法人では守られ方がはっきり変わります。

違い① 公的な医療と年金の、入口が違います

健康保険と厚生年金は「事業所」ごとに適用されます。法律の線引きはこうです。

強制的に加入する事業所
  • 法人の事業所で、常時従業員を使用するもの。日本年金機構は「事業主のみの場合を含む」と説明しています。つまり社長ひとりの会社でも入ります
  • 個人の事業所は、法律に並んだ業種にあてはまり、かつ常時5人以上の従業員がいる場合。農林漁業やサービス業などは、この対象から外れています

ここに当てはまらない事業所も、従業員の半数以上の同意を得て申請すれば適用事業所になれます(任意適用)。

そして被保険者になるのは適用事業所に使用される人です。法人の代表者は法人に使用される立場なので被保険者になりますが、個人事業主ご本人は「使用される者」ではありません。お店が適用事業所であっても、ご本人は国民健康保険と国民年金です。従業員は厚生年金、社長は国民年金、という組み合わせが起こります。

違い② 働けない間のお金が、あるかないか

この差がいちばん大きいかもしれません。健康保険には傷病手当金があります。病気やケガの療養で仕事ができないとき、休み始めて3日を過ぎた日から支給されるお金です。

健康保険の傷病手当金(健康保険法99条)
  • 労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から
  • 1日あたり、支給を始める日以前の直近12か月の標準報酬月額を平均した額の30分の1の、3分の2にあたる額
  • 同じ病気やケガについて、支給を始めた日から通算して1年6か月

いっぽう国民健康保険はどうかというと、国民健康保険法58条2項が、傷病手当金は条例や規約の定めるところにより行うことができると書いています。「支給する」ではなく「できる」。法律で必ずもらえると決まっているものではない、任意の給付という位置づけです。

つまり個人事業主の方は、寝込んでいる間の収入をご自身で用意しておく必要があります。所得補償保険や就業不能保険を検討する動機が、法人の代表者よりはっきり強い、ということです。

違い③ 引退のときのお金の、積み方

従業員の退職金には中退共という国の制度がありますが、経営者・役員は対象外です。そこで用意されているのが小規模企業共済(小規模企業共済法・昭和40年法律第102号)。中小機構が運営しています。

項目小規模企業共済
入れる人個人事業主、会社等の役員、共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)
規模の条件建設業・製造業・運輸業・不動産業・農業・サービス業(宿泊業、娯楽業に限る)などは従業員20人以下。商業(卸売業・小売業)と、宿泊業・娯楽業を除くサービス業は5人以下
掛金月1,000円から7万円まで、500円きざみ
受け取り廃業、会社の解散、役員の疾病・負傷・65歳以上での退任などのとき。一括、分割、併用から選べます
その他加入後6か月以上経過していることが必要。掛金の範囲内で、担保・保証人なしの貸付制度があります

なお、事業に従事しているだけの配偶者などの事業専従者は、原則として加入できません(共同経営者の要件を満たせば共同経営者として入れます)。掛金や共済金の税金の取扱いは、顧問の税理士にご確認ください。

同じところ 自分のケガは、どちらも労災の外

ここは共通です。個人事業主も法人の代表者も、労災保険でいう「労働者」ではありません。従業員の労災保険料を納めていても、ご自身のケガには下りない。埋めるには特別加入という別の手続きが要ります。

並べてみると

個人事業主ご本人法人の代表者
公的医療国民健康保険健康保険(適用事業所の被保険者)
公的年金国民年金厚生年金+国民年金
働けない間のお金傷病手当金は任意給付傷病手当金あり(通算1年6か月)
仕事中のケガ労災は特別加入で労災は特別加入で
引退のお金小規模企業共済小規模企業共済(規模の条件あり)
この記事のまとめ

法人にすると、社長ひとりでも健康保険と厚生年金に入ります。そこには傷病手当金という、働けない間の収入を支える給付がついてきます。個人事業主にはこれが法律上の保障として用意されていません。労災の外に立っている点は両者に共通で、そこは特別加入で埋めます。どちらが得かという話ではなく、自分がいまどの穴の上に立っているかを知っておくこと。そこから民間の保険で埋める場所が決まります。

出典

※本記事は2026年9月1日時点の一般的な情報提供です。社会保険の適用、給付の内容、共済の加入資格や掛金は法令・制度の改正で変わります。個別の可否や手続きは、年金事務所、市区町村の窓口、中小機構、社会保険労務士、税理士にご確認ください。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。

「自分が3か月寝込んだら、家と会社のお金はどうなるか」。この一問に数字で答えられる方は、そう多くありません。公的な制度でどこまで出て、どこから出ないのか。まずそこを一緒に書き出してみませんか。足りない部分が見えてから、保険の話をします。

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