天井から水が落ちてきたら|だれの責任かは、漏れた場所で変わります
「上の部屋の人に言えば、弁償してもらえるんですよね。」マンションで天井から水がしみてきたとき、まずそう考える方が多いと思います。ところが、上の部屋の人が責任を負うとは限りません。水が漏れたのが上の部屋の中なのか、建物の共用の配管や外壁なのかで、責任を負う人も、使われる保険も変わるからです。2026年1月には、共用部分からの水漏れについて、管理組合が賠償責任を負うという最高裁の初めての判断も出ました。
水漏れの責任は、水がどこから漏れたかで決まります。
- 上の部屋の中が原因(洗濯機のホース、お風呂、部屋の中の配管)なら、上の部屋の人の責任です。
- 建物の共用部分が原因(縦に通る排水管、外壁や床のコンクリート)なら、管理組合の責任です。
- どちらか分からないときは、法律上、まず共用部分の不具合と推定されます。
- 相手との話を待たずに、ご自分の火災保険の「水ぬれ」補償で直せることもあります。
「自分の部屋」と「共用部分」は、どこで分かれる?
分譲マンションの建物は、それぞれの持ち主のものである「専有部分」と、住んでいる人みんなで持つ「共用部分」に分かれています。国土交通省の「マンション標準管理規約」(各マンションが管理規約をつくるときのひな形)では、境目を次のように示しています。
- 床・壁・天井 コンクリートの骨組み(躯体)を除いた内側が専有部分です。床のコンクリート(床スラブ)や外壁、屋上は共用部分です。
- 水道の配管 建物の本管から、各部屋のメーターまで(メーターを含む)が共用部分です。
- 排水管 上の階から下の階へ縦に通る「立て管」と、その継ぎ目が共用部分です。立て管から分かれて部屋に向かう「枝管」は、その部屋だけが使う設備なので、ふつうは専有部分に入ります。
※標準管理規約をもとにした模式図です。実際の境目は、それぞれのマンションの管理規約と建物のつくりで決まります。
原因の場所で、相手も保険も変わります
建物のつくりや管理に欠陥(法律の言葉では「瑕疵(かし)」)があって他人に損害を与えたとき、民法717条は、まずその場所を管理している人(占有者)が賠償し、その人が必要な注意を尽くしていた場合は持ち主が賠償する、と定めています。水漏れにあてはめると、次のようになります。
| 水が漏れた場所 | 責任を負う人 | 使われることが多い保険 |
|---|---|---|
| 上の部屋の中 (洗濯機のホース、お風呂、部屋の中の配管) | 上の部屋に住んでいる人 (場合によっては部屋の持ち主) | 上の部屋の人の個人賠償責任保険 |
| 共用部分 (立て管、外壁や床のコンクリートのひび、屋上) | 管理組合 | 管理組合が共用部分にかけている保険 |
※管理組合は、共用部分について火災保険などの損害保険をかけるのが一般的です(標準管理規約24条)。賠償に備える補償が付いているかどうかは、管理会社や理事会で確かめられます。
2026年1月、最高裁が「管理組合が賠償する」と初めて判断
共用部分からの水漏れで、管理組合に賠償を求められるのか。この点は裁判所によって判断が分かれ、報道によると、区分所有者全員を相手に裁判を起こさなければならないケースもあったといいます。
最高裁判所第一小法廷は2026年1月22日、外壁や床のコンクリートのひび割れから部屋に4回水が漏れた東京都内のマンションの事件で、管理組合は共用部分について民法717条の「占有者」にあたると判断しました。管理組合は共用部分を管理して安全を保つ立場にあり、管理費も集めているので、その財産から賠償するのが区分所有者の考えにも合い、被害を受けた人の保護にもなる、という理由です。請求を退けていた東京高等裁判所の判断は改められ、損害額などを審理するため事件は高裁に差し戻されました。
原因が分からないときは「共用部分」と推定されます
水がどこから来たのか、すぐには分からないこともあります。区分所有法9条は、建物のつくりや管理の欠陥で他人に損害が出たとき、その欠陥は共用部分にあるものと推定すると定めています。建物に欠陥があったことが分かれば、それが専有部分か共用部分かまで突き止められなくても、まず共用部分の問題として扱われるということです。推定なので、ほかの場所が原因だと示されれば変わります。
自分の火災保険の「水ぬれ」でも直せます
ご自分の火災保険に「水ぬれ」の補償が付いていれば、相手の責任がはっきりする前でも、それで直すことができます。日本損害保険協会が示す火災保険の標準例では、水ぬれの補償の対象として、給排水設備が壊れたり詰まったりして起きた漏水と、他人の部屋で起きた漏水による水ぬれを挙げています。上の階から漏れてきた水も、ここに入ります。
証券では、次の3つを確かめておきます。
- 水ぬれが付いているか 補償をしぼったプランや、昔からある住宅火災保険の型には、水ぬれが入っていないものがあります。
- 建物と家財のどちらに入っているか 濡れた天井や壁紙は「建物」、濡れた家電や家具は「家財」の補償です(建物と家財の記事)。賃貸にお住まいなら、建物は大家さんの保険で、ご自分が入るのは家財の保険です。
- 古くなった配管そのものは別 標準例では、自然の消耗や劣化によって、その部分に生じた損害には保険金を払わないとしています。ご自分の部屋の配管が原因の場合でも、傷んで穴があいた配管そのものの修理は、この扱いで対象外になるのがふつうです。水で濡れた床や壁とは分けて考えます。
自分の保険で先に直した場合、受け取った保険金の分について相手に請求する権利は、保険会社に移ります(保険法25条)。保険会社が上の部屋の人や管理組合に請求するしくみなので、同じ損害で二重に受け取ることはできません。そのかわり、相手との話し合いの結果を待たずに、修理を進めやすくなります。
反対に、自分の部屋から漏らしてしまったら
洗濯機のホースが外れた。お風呂の水を止め忘れた。こうしたことで下の部屋に損害を与えたときに使われるのが、個人賠償責任保険です。日常生活でうっかり他人の物を壊すなどして賠償責任を負ったときの保険で、火災保険や傷害保険、自動車保険の特約として付いていることが多いものです(個人賠償責任保険の記事)。
賃貸の場合、借りている部屋の床や壁を傷めた分は大家さんへの責任になり、個人賠償責任保険ではなく借家人賠償責任の補償で扱われます。どんな事故が対象になるかは契約によって違います。
水が漏れてきたら、最初にすること
- 写真や動画で残す 天井のしみや濡れた家具・家電を撮っておきます。濡れた物を処分するのは、撮ってからです。
- 管理会社と上の部屋に知らせる 原因の場所を調べてもらいます。賃貸なら大家さんにも連絡します。
- 保険会社か代理店に連絡する 相手に請求する場合でも、自分の補償を使う場合でも、早めに伝えておくと話を進めやすくなります。
マンションの水漏れは、上の部屋の中が原因なら上の部屋の人、共用部分が原因なら管理組合が責任を負います。2026年1月の最高裁判決で、管理組合が共用部分について賠償責任を負うことがはっきりしました。原因が分からないときは、まず共用部分の欠陥と推定されます。相手の責任とは別に、ご自分の火災保険の「水ぬれ」で直せることもあるので、証券を一度見ておくと、いざというとき慌てずに済みます。
出典
- 最高裁判所 令和8年1月22日 第一小法廷判決(令和6年(受)第385号)(PDF)(管理組合は特段の事情がない限り共用部分について民法717条1項の「占有者」にあたること、その理由、事案の概要と差し戻し)
- 秋田魁新報(共同通信配信)「管理組合の賠償責任認定、最高裁 マンション共用部分の欠陥」2026年1月22日(初めての判断であること、下級審で判断が分かれていたこと)
- e-Gov法令検索 民法(717条 土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
- e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律(9条 建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定)
- e-Gov法令検索 保険法(25条 請求権代位)
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」令和7年10月17日改正(PDF)(7条 専有部分の範囲、24条 損害保険契約の締結、別表第2 共用部分の範囲)
- 日本損害保険協会「火災保険標準例」(PDF)(水ぬれの定義、水ぬれが付かないプランがあること、自然の消耗・劣化による損害は支払われないこと)
- 日本損害保険協会「火災保険」(住宅火災保険と住宅総合保険で、給排水設備の事故等による水濡れの補償が異なること)
- 日本損害保険協会 損害保険Q&A 問80(個人賠償責任保険のしくみと、火災保険などの特約として販売されていること)
※本記事は2026年10月時点の法令・判例・公表資料にもとづく一般的な情報提供です。個別の事故で誰が責任を負うかは、建物のつくりや管理規約、事故の状況によって変わります。法律上の判断が必要なときは、弁護士などの専門家にご相談ください。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。
「うちの火災保険、水ぬれは付いていたかな。」そう気になったら、証券を手元にご連絡ください。水ぬれと個人賠償責任の補償が付いているか、建物と家財のどちらに入っているかを一緒に確かめます。補償を足すかどうかは、それを見てから考えていただければ大丈夫です。