直せる車でも「全損」になります|車両保険で戻るお金の上限

保険の基礎知識

「直せますよ」と工場では言われたのに、保険会社からは「全損です」と伝えられた。事故のあと、この食い違いに戸惑う方がいます。車はそこにあるし、直せるとも言われた。それでも全損。日常の言葉と保険の言葉が、ここだけずれています。

「全損」は、形が残っているかどうかでは決まりません

日本損害保険協会は、車両保険の全損を「ご契約の自動車全体の滅失、修理費が保険価額を上回るなど」と説明しています。前半はイメージどおりでしょう。火災や水没で車が残らなかった、盗まれて戻ってこない、といった場合です。

戸惑いのもとになるのは後半です。修理費が保険価額、つまり契約している車両保険の金額を上回れば、直せる車でも全損として扱われます。板金も塗装もできる、直そうと思えば直せる。けれど、かかるお金がその車の値打ちを超えてしまっている。この状態を実務では経済的全損と呼びます。

ここが分かれ目

全損かどうかを決めているのは、車の壊れ方ではありません。修理の見積額と、車両保険の金額の大小です。同じくらいのへこみでも、新しい車なら修理費が出て、年数の経った車なら全損になる、ということが起こります。

車両保険の金額は、契約したときにもう決まっています

自家用の普通乗用車や小型乗用車では、車両価額協定保険特約という特約が車両保険に自動でセットされているのが一般的です。契約のときに契約者と保険会社のあいだで保険価額を決めておき、その金額と保険金額を保険期間中はつねに一致させる、というしくみだと損保協会は説明しています。

その基準になるのが市場販売価格相当額。同じ車種・同じ年式で、同じくらい使い込まれた車を買い直すとしたらいくらか、という価格です。新車価格でも、自分が買ったときの値段でもありません。

これは保険会社が勝手に決めたルールではなく、法律にも下敷きがあります。保険法は第18条第2項で、あらかじめ約束した保険価額(約定保険価額)があるときは、埋め合わせる損害額はその金額で計算する、と定めています。協定した金額が、そのまま損害の物差しになるわけです。

そして車の値段は毎年下がるので、更新のたびに車両保険の金額も下がります。修理費のほうは年式では安くなりませんから、年数が経つほど、ふつうの修理でも上限を超えやすくなります。

車両保険の金額は更新のたびに下がり、やがて修理費を下回ります 同じ修理でも、年数が経つと「全損」になります 200万円 160万円 125万円 95万円 70万円 50万円 35万円 修理費 60万円 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 全損あつかい 全損あつかい

イメージ図です。金額は説明のための例で、実際の下がり方は車種や使い方によって違います。

数字にすると、こうなります

車両保険の金額が80万円、免責金額(自己負担額)が5万円という契約で考えてみます。免責金額とは、損害のうち自分が負担すると契約のときに決めておく金額のことです。

 修理費 50万円修理費 110万円
あつかい一部の損害(分損)全損
免責金額 5万円差し引かれます差し引かれません
受け取る保険金45万円80万円

車両保険の金額80万円・免責金額5万円とした場合の考え方です。実際の約款は保険会社によって異なります。

右の列で目を引くところが2つあります。ひとつは、110万円かかる修理に対して出るのが80万円にとどまること。残りの30万円は自分で払うか、修理をあきらめて買い替えるかの選択になります。

もうひとつは免責金額です。損保協会は、車両保険では免責金額を差し引いた額が支払われるとしたうえで、全損の場合は免責金額を差し引かずに保険金が支払われると説明しています。ふだんは引かれるものが、全損のときだけ引かれません。

あまり知られていないところ

免責金額を高めにして保険料を抑えている契約でも、全損のときはその設定が効いてきません。ふだんの小さな事故では自己負担が増え、全損では変わらない。免責金額をいくらにするか決めるときの、ひとつの判断材料になります。

全損と言われたあとに、知っておきたい3つのこと

盗まれた車が出てきたら、返してもらえることがあります

盗難は、通常は全損として保険金が支払われます。そして保険金が支払われると、保険法第24条(残存物代位)によって、その車の所有権は保険会社に移ります。

ただ、あとから車が見つかることがあります。損保協会が挙げている約款の例では、保険金を支払った日の翌日から数えて60日以内に見つかった場合、受け取った保険金を全額払い戻せば、車を返してもらえます。見つかるまでのあいだに車が傷んでいれば、その損害に保険金を請求することもできます。日数は約款によって違うので、そこは契約先に確かめてください。

新しい車には「新車特約」という選択肢があります

車両新価保険特約、いわゆる新車特約です。新車が購入後の一定期間内に一定以上の損害を受けたとき、代わりの新車を買うための保険金が出ます。協定した金額が上限、という原則から外れられる数少ない道です。

ただし条件が細かい。損保協会は、付けるときの条件の例として初度登録から各社の定める期間内に保険期間の末日があること、支払いの条件の例として盗難は対象外であることを挙げています。会社ごとの差が大きい特約なので、中身を見てから決めることになります。

少額の修理は、使わないほうがいいこともあります

全損とは逆方向の話ですが、判断のしかたは同じで「いくら手元に残るか」です。保険を使うと翌年の等級が下がり、さらに事故から3年間は同じ等級でも低い割引率が適用されます。損保協会も、増える保険料のほうが受け取る保険金より大きくなる場合がある、としています。少額の修理なら、使わない判断もあり得ます(事故有係数適用期間の話です)。

いま、証券で確かめられること

  • 車両保険の金額 「車両保険金額」「協定保険価額」などの欄です。いくらが上限なのかが、ここに書いてあります。
  • 免責金額(自己負担額) 1回目の事故と2回目以降で金額が違う設定もあります。
  • 新車特約が付いているか 付けられる期間がまだ残っているかどうかも含めて。
  • 補償のタイプ 一般型か、限定タイプか。そもそも保険金が出る事故の範囲が変わります。
まとめ

全損という言葉は、車が原形をとどめないことだけを指しているわけではありません。修理費が車両保険の金額を上回れば、直せる車でも全損です。そしてその金額は契約したときに決まっていて、更新のたびに下がっていきます。事故のあとに知ると受け止めにくい話なので、次の更新のときにでも、証券の車両保険金額を一度見ておいてください。

出典

  • 日本損害保険協会 損害保険Q&A くるまの保険 問15(車両保険は契約時における市場販売価格相当額を基準に保険金額を設定し、修理代などがこの保険金額を超える場合には保険金額を限度に保険金が支払われること)
  • 同 問16(車両価額協定保険特約のしくみ、市場販売価格相当額は同一車種・同年式で同じ損耗度の車を購入する場合の価格=再調達価額であること、車両新価保険特約〈新車特約〉の付帯条件と支払条件の例)
  • 同 問44(全損とは「ご契約の自動車全体の滅失、修理費が保険価額を上回るなど」であること、全損の場合は免責金額を差し引かずに保険金が支払われること)
  • 同 問47(盗難で保険金が支払われると所有権が保険会社に移ること、約款の例では支払日の翌日から60日以内に発見された場合に保険金を払い戻して返還を受けられること)
  • 同 問49(等級ダウンと事故かり3年間の低い割引率により、翌年以降の保険料増加額が保険金の額を上回る場合があること)
  • e-Gov法令検索「保険法」(第18条第2項=約定保険価額があるときはてん補損害額をその金額で算定すること、第24条=残存物代位)

※本記事は2026年9月時点の一般的な情報提供です。全損の定義、免責金額のあつかい、新車特約の条件、盗難車の返還期間は、保険会社や商品の約款によって異なります。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。

車両保険の金額がいくらになっているか、証券のどこを見ればいいのか分からない、という声はよくいただきます。年式が進んだ車なら、車両保険を続けるかどうかも考えどころです。証券を一枚お持ちいただければ、いまの上限額と免責金額をその場で確かめられます。入り直す前提でなくてかまいません。まずは、いま出るはずの金額を知るところから。

💬 車両保険の中身を確かめる(お問い合わせ)