対物賠償が「無制限」でも、相手の車の修理代が全額出ないことがある|時価額のルールと「対物超過」の特約

保険の基礎知識

「対物賠償は無制限にしています」。自動車保険の話になると、多くの方がまずこう答えます。実際、無制限は今では一般的な設定です。

ところが無制限にしていても、相手の車の修理代が全額は出ないことがあります。保険会社が出し渋るからではなく、法律が「損害」をどう数えるかという、もっと手前のルールが理由です。事故のあとで初めて知ると、相手との話し合いが止まってしまう原因にもなります。

「無制限」は、賠償責任の範囲内で無制限

対物賠償責任保険は、事故で他人のモノを壊し、法律上の損害賠償責任を負ったときに保険金が支払われる保険です(自動車保険の骨格は対人・対物・車両の3本柱で整理しています)。

日本損害保険協会は、保険金額の「無制限」について、支払われる保険金の限度額が無制限という意味であって、賠償責任の負担額を超えて無制限に支払われるということではない、と説明しています。

つまり、無制限が外しているのは「保険の上限」だけで、「賠償責任そのものの上限」は残ったままということです。

相手の車の修理代は、原則「時価額」までしか損害にならない

では、その賠償責任の上限は何で決まるのか。車の場合は、事故が起きた時点の時価額です。時価額とは、同じ車種・年式・状態の中古車を今あらためて買うといくらか、という金額のこと。年式が古くなるほど下がっていきます。

損保協会のQ&Aには、こんな例が載っています。時価額100万円の車が壊れ、修理には150万円かかる。新車のときの価格が200万円だったとしても、法的な車の価値は時価額の100万円。だから修理費のうち50万円分は「損害」として評価されず、請求できるのも100万円までになります。

修理費と時価額の差額を、対物超過修理費用特約が補う仕組み 実際にかかる修理費 150万円 時価額 100万円 差額 50万円 対物賠償が払える上限 法律上は「損害」と 評価されない部分 対物超過修理費用特約があれば この差額を限度額まで(過失割合に応じて)カバー
ここがポイント

古い車ほど時価額は低くなります。修理費が時価額を超えるのは、けっして珍しいことではありません。

「経済的全損」と呼ばれる状態

車の時価額に買替諸費用(買い替えたときにかかる登録・車庫証明・廃車の法定手数料など)を足した金額よりも修理費が高いとき、これを経済的全損といいます。公益財団法人 日弁連交通事故相談センターは、この場合、加害者は時価額から壊れた車の売却代金(スクラップ代)を差し引いた「買替差額」を賠償すれば足りる、というのが裁判所の考え方だと説明しています。同じくらいの車に買い替えられれば、それ以上は負担しなくてよい、という発想です。

この「時価」という考え方は、火災保険にもあります(新価と時価の違い)。保険の世界に共通する物差しだと思っておくと、あちこちで腑に落ちます。

この差額を埋めるのが「対物超過修理費用特約」

損保協会は、時価額と修理費の差額を一定額(例えば50万円など)を限度に補償する特約を扱っている会社がある、としています。呼び名は会社によってさまざまで、対物超過修理費用特約、対物差額修理費用補償特約、対物全損時修理差額費用特約などと呼ばれます。中身はおおむね同じものです。

先ほどの例で、過失割合が相手8:自分2、相手がこの特約を使ったとすると、こうなります。

相手から受け取れるお金特約なし特約あり
対物賠償から80万円80万円
対物超過の特約から40万円
合計80万円120万円

修理費150万円・時価額100万円の場合。80万円は時価額100万円の8割、40万円は差額50万円の8割。損保協会Q&A 問43の例に沿っています。

使うときの3つの条件
  • 実際に修理する差額を埋める特約なので、修理せずに買い替えた場合は対象になりません。
  • 限度額がある50万円を限度とする例が一般的です。差額がそれを超えた分は残ります。
  • 過失割合を掛ける自分にも過失があれば、その割合分は差し引かれます。

この特約は「自分が加害者になったとき」のもの

ここが少しややこしいところです。上の表で40万円を出しているのは相手の保険被害者の側からは、相手がこの特約を付けているかどうかを選べません

裏返せば、自分が加害者になったとき、この特約がなければ差額は自分の財布から出すことになります。払わなければ相手は車を直せず、話し合いもそこで止まります。「相手に迷惑をかけないための備え」と考えると、位置づけがはっきりします。

なお、自分にまったく過失のないもらい事故では、そもそも賠償責任が生じないので対物賠償も特約も出番がありません。このときは自分の保険会社が相手と交渉することもできない、という別の問題が出てきます(弁護士費用特約の話です)。

自分の車を壊された側になったら

  • 示された時価額を、そのまま受け入れなくてよい。日弁連交通事故相談センターは、保険会社はレッドブックなどの資料で時価を調べるが、実際にその金額で同等の車が買えるとは限らないと指摘しています。中古車販売のサイトで、同じ車名・グレード・年式・走行距離の車がいくらで売られているかを調べ、反論する余地があるとしています。
  • 買替諸費用は別に請求できる。買い替えた場合、登録や車庫証明、廃車の法定手数料などは買替差額とは別枠です。
  • 「格落ち」は期待しすぎない。修理しても価格が下がる格落ち損害(評価損)という考え方はありますが、損保協会は修理技術の発達により発生するケースは少なくなっていると説明しています。
まとめ
  • 対物賠償の「無制限」は、保険の限度額が無制限という意味。賠償責任そのものの上限は別にある。
  • 相手の車は、原則として事故時の時価額までしか損害として評価されない。
  • その差額を埋めるのが対物超過修理費用特約。実際に修理すること、限度額、過失割合という条件つき。
  • この特約は加害者側が付けるもの。自分の契約に付いているかは、保険証券か代理店で確認できる。

出典

※本記事は2026年7月時点の一般的な情報提供です。特約の名称・限度額・支払条件は保険会社や商品によって異なります。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。

「この特約、うちの契約に付いていたかな」。保険証券を見れば書いてあるのですが、どこを見ればいいのか分かりにくいのも事実です。お手元の証券を一緒に開いて、いまの補償を一つずつ確認するところから始めます。売り込みは、そのあとの話です。

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