工作物責任とは|建物や設備の事故、先に問われるのは借りている会社

法人・事業の保険

「借りている店なんだから、建物のことは大家さんの責任でしょう。」そう考えている方は少なくありません。ところが、建物や設備の不具合で人にケガをさせたときの民法のルールは、まず実際に使って管理している人に責任を向けます。店や事務所を借りて営業しているなら、それは多くの場合、自分の会社です。
先に結論
  • 建物や設備の不具合による事故は、民法717条(工作物責任)で責任の順番が決まっている
  • 先に問われるのは「占有者」=実際に使い、管理している人。必要な注意をしていたと自分で示せなければ、そのまま責任を負う
  • 占有者が免れると、次は「所有者」。所有者には、注意していたから免れるという道が条文にない
  • 施設の賠償責任保険は、建物の不具合と仕事中の不注意の両方が対象。ただし、提供した料理や預かった物、車、工事、従業員のケガなどは別の保険の領域

建物や設備が原因の事故は、民法717条のルール

民法717条は、「土地の工作物」の設置や保存に瑕疵(かし)があって他人に損害が出たとき、だれが賠償するかを決めている条文です。一般に「工作物責任」と呼ばれます。

土地の工作物とは、土地に据え付けて、人の手を加えて造ったもののこと。建物そのもののほか、塀や石垣、擁壁(ようへき)なども含まれます。同じ条文の2項は、敷地の木の植え方や支え方に問題があった場合にも、このルールを当てはめています。

瑕疵とは、その物が本来備えているべき安全性を欠いている状態をいいます。壊れている場合に限りません。最高裁は1971年(昭和46年)4月23日の判決で、見通しが悪く、過去にも接触事故が何度か起きていた踏切に警報機が付いていなかったことを、設置の瑕疵にあたると判断しました。あるべき安全の備えが無いことも、瑕疵になりうるということです。

責任の順番は「使っている人」、次に「持ち主」

717条の組み立ては、少し変わっています。被害を受けた人に対して最初に責任を負うのは、持ち主ではなく占有者です。占有者とは、その建物や設備を実際に支配し、管理している人のこと。建物を借りて使っている人は、これにあたるとされています。

工作物責任の順番(民法717条) 建物・設備の不具合で、他人に損害 ① 先に問われる:占有者 実際に使い、管理している人 (店や事務所を借りている会社など) 必要な注意をしていたと示せれば免れる 注意していたと示せたとき ② 次に問われる:所有者 建物や設備の持ち主(大家さんなど) 免れる規定がない=過失がなくても負う ①②とも、支払ったあとで 原因をつくった人に請求(求償) 施工した業者など(717条3項) ※民法717条をもとにした模式図

先に名前が挙がる占有者のほうが、実は逃げ道を持っています。ただし「注意していた」と示すのは占有者の側です。ふつうの不法行為のように、被害を受けた人が過失を証明するわけではありません。学説の解説でも、この免責はなかなか認められないと言われています。

持ち主のほうは、過失がなくても負う無過失責任と説明されます。貸している側から見れば、借り手が注意を尽くしていた場合に、最後に残るのは自分の責任です。

原因をつくった人がほかにいれば、支払ったあとでその人に請求できます(3項)。施工に問題があったなら業者へ、という流れです。ただ、被害を受けた人が請求する相手は、あくまで占有者や所有者です。

だれが占有者にあたるかは、実際にだれが支配・管理しているかで考えます。借りている店の中なら、借り手の会社が占有者です。外壁や共用の階段のように、持ち主や管理会社が管理している部分なら、持ち主が占有者を兼ねることもあります。

「注意していた」を示す材料は、ふだんの記録
  • 点検した日と、見た場所
  • 不具合に気づいて、大家さんや管理会社に伝えた日と方法(メールや書面)
  • 修理が済むまでにとった対応(立入禁止、貼り紙など)

記録があれば必ず免れる、というものではありません。それでも、事故が起きてから記憶をたどるより、ずっと説明しやすくなります。

人の不注意による事故は別の条文。それでも請求は会社に来ます

店の中の事故が、すべて717条というわけではありません。日本損害保険協会は、店に積み上げていた商品が倒れて来店客が足を骨折し、治療費や入院中の休業補償、慰謝料などで合計100万円以上を支払った例を紹介しています。

商品は建物や設備ではないので、これは工作物の話ではなく、置き方や扱い方の問題です。根拠になるのは、一般の不法行為(709条)や、従業員が仕事中に他人に与えた損害を会社も負う使用者責任(715条)。使用者責任は社用車の事故の記事でも取り上げています。

法律の根拠は違っても、請求が届く先は同じ会社です。施設の賠償責任保険は、損保協会の説明によると、所有・使用・管理している施設の欠陥と、従業員などの仕事の遂行の両方を原因とする賠償を対象にしています。建物のせいでも、人の不注意でも、どちらも受け止める形です。

施設の賠償保険では、対象外になりやすい場面

一方で、施設の賠償責任保険だけでは受け止めきれない場面もあります。複数の保険会社の約款を見ると、次のようなものは一般に対象外とされ、別の保険や特約で備える形になっています。

対象外になりやすい場面主な備え・扱い
販売した商品や、提供した料理が原因の事故(食中毒など)生産物賠償責任保険(PL保険)
仕事を終えた後・引き渡した後に、その仕事の結果で起きた事故生産物賠償責任保険(PL保険)
預かった物・借りている物を壊した、なくした受託者賠償責任保険など
自動車の事故自動車保険
建物の新築・改築・修理・取り壊しなどの工事による事故工事を請け負う業者の保険(請負業者賠償責任保険)の確認
給排水管や空調などからの水漏れで、他人の物をぬらした特約で補償できる場合がある
地震・噴火・洪水・津波などによる事故施設の賠償保険では対象外
従業員が仕事中にケガをした労災保険と、その上乗せ

見落としやすいのは料理です。店の中で食べてもらった料理による食中毒も、施設ではなくPL保険の側で扱うのが一般的です。PLの考え方はPL法の記事にまとめています。

範囲や特約の名前は、保険会社や契約によって違います。施設・PL・請負などを一つの契約にまとめた、事業者向けの総合的な賠償保険もあります。

借りている会社が、確かめておきたい3つのこと

  • 賃貸借契約の分担:内装や設備、看板の修繕と管理を、どちらが受け持つことになっているか
  • 不具合を伝える先と記録:大家さんや管理会社の連絡先と、伝えた記録の残し方
  • 保険の契約と実態のずれ:施設の賠償保険の保険料は、施設の種類や面積、入場者数、売上高などで決まります。店を増やした、業務を広げたといった変化が、契約に反映されているか

出典

※本記事は2026年9月時点の一般的な情報提供です。民法717条の責任が認められるか、だれが占有者にあたるかは、建物の使い方や契約、事故の状況によって判断が分かれます。個別の法律判断は弁護士等の専門家にご相談ください。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。

「うちの契約で、店の中の事故はどこまで出るんだろう。」証券を見ても、施設・PL・預かり物のどこまで入っているかは、ぱっと見では分かりにくいものです。業態といまの証券を見せていただければ、抜けている場面がないかを一緒に確かめます。売り込みより先に、まず今の契約の確認から。

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