一人親方のけがも監督署に報告|2027年1月から現場の会社の義務
2027年1月1日から、一人親方やフリーランスのけがも報告の対象に
2025年5月に公布された改正労働安全衛生法は、これまで社員(労働者)を中心に組み立てられてきた安全のルールに、一人親方やフリーランスも取り込みました。そのうち、けがの報告の仕組みは、細かな決まりを定めた省令が2025年12月に公布され、2027年1月1日から始まります。正式には「個人事業者等死傷病報告」といいます。
国はこれまで、一人親方などの仕事中のけがをまとめて把握する仕組みを持っていませんでした。報告は、けがを減らす対策を考えるための基礎資料として集められます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象になる人 | 社員を雇わずに事業をしている人(一人親方、フリーランスなど)。中小企業の社長や役員も含みます |
| 対象になるけが | 社員と同じ場所で作業していて、仕事が原因のけがや病気で、亡くなったか4日以上休んだとき |
| 報告する人 | その場で自らも仕事をしている、いちばん近い注文者。いなければ、その場所を管理する事業者 |
| 期限と方法 | 遅滞なく。原則は電子申請で、当分の間は書面でも出せます |
| 罰則 | ありません。ただし、報告そのものは義務です |
過労による脳や心臓の病気、強いストレスによる心の病気は、この報告の対象から外れています。こちらは本人が直接、監督署に報告できる別の仕組みが用意されています。
「個人事業者」かどうかは、法人かどうかでは決まりません
この法律でいう個人事業者は「事業を行う者で、労働者を使用しないもの」です。税金の世界のように法人か個人かで分けるのではなく、社員を雇っているかどうかで分けます。社員のいない一人社長の会社も、ここでは個人事業者に入ります。フリーランス法でいう「特定受託事業者」も、基本的にはこれに当たります。
対象は「社員と同じ場所」で起きたけがだけです
報告の対象になるのは、社員と同じ場所で作業していたときのけがです。国の通達は、同じ空間で同時に作業が行われている場所を典型とし、次のような例を挙げています。
- 物流倉庫の荷さばき場で、社員と運送の個人事業者が、同じフォークリフトの作業区域で荷物を扱っている
- 工場の製造ラインで、社員と個人事業者が同じ設備を使って作業している
- 階や区画は違っても、火災や粉じん、有機溶剤などの影響が及ぶおそれがある
反対に、完全に区切られた別棟での作業のように、危険が及ばない場所は「同じ場所」に当たりません。
報告するのは「その場にいる、いちばん近い注文者」です
だれが報告するかは、仕事の頼み方と、けがをした場所で決まります。法律では、報告する注文者を「特定注文者」と呼んでいます。考え方は次の順番です。
たとえば、元請けの建設会社が工務店に工事を頼み、その工務店が一人親方に作業を頼んだとします。工務店も現場で作業していれば、報告するのは工務店です。工務店が現場にいなければ、現場で仕事をしている元請けが報告します。
注文者がだれも現場にいない場合は、その場所を管理する事業者に回ります。通達には、大きな商業施設のバックヤードの管理を物流会社に任せているなら、その物流会社が報告する側になる、という例があります。個人のお宅から直接頼まれた仕事のように、どちらにも当たる人がいなければ、報告の義務は生じません。
社長や役員のけがは、自分の会社が報告します
中小企業の社長や役員が、社員と同じ場所で作業していてけがをしたときは、扱いが少し違います。注文者がだれかにかかわらず、その人が属する会社が自ら監督署へ報告します。自社の現場で、社員と一緒に作業していてけがをした場合も同じです。
ここでいう中小企業は、労災保険の特別加入で「中小事業主」になれる規模と同じです。常時使う労働者が300人以下(金融・保険・不動産・小売業は50人以下、卸売・サービス業は100人以下)の会社が当たります。
けがをした本人にも、伝える義務があります
一人親方などの側も、けがで4日以上休んだときは、報告する側の会社に遅滞なく伝えなければなりません。亡くなった、意識がないなど、本人が伝えられない場合は別です。
会社のほうは、本人からの連絡を待つ必要はありません。けがの瞬間を見ていた、救急搬送されたことを知っていた、という場合も「把握した」に入り、その時点で報告の義務を負います。
一人親方がけがを伝えたことを理由に、不利な扱いをすることは禁じられています。国の通達は、合理的な理由のない契約の打ち切りや更新の拒否、条件の切り下げ、現場への立ち入りの制限、嫌がらせ、取引をやめるとほのめかすことなどを例に挙げています。また2026年4月からは、一人親方なども安全のルール違反を監督署に申し出られるようになり、申し出を理由に取引を止めることも禁止されています。
報告と、けがの責任は別の話です
報告する側になったからといって、それだけでけがの責任を負うわけではありません。国の通達も、報告の義務と災害を防ぐ責任とは直接の関係がない、と明記しています。罰則のない義務とされているのも、そのためです。
ただ、けがの原因によっては、別のルールで賠償を求められることがあります。たとえば建物や設備の不具合が原因なら、その場所を使って管理している会社が問われる「工作物責任」があります(「工作物責任とは」)。
けがをした本人の補償は、労災保険に特別加入しているかどうかで大きく変わります。一人親方は社員(労働者)ではないので、原則として元請けの労災保険の対象にもならず、特別加入していなければ労災保険からの給付はありません(「社長がケガをしても、労災は下りません」)。新しい報告で届け出る事項にも、けがをした人が特別加入しているかどうかが含まれています。
会社の保険で、一人親方のけがはどう扱われるか
会社が労災の上乗せとして入る保険(労働災害総合保険など)は、補償の対象を自社の従業員とする作りが基本です。役員や下請けの方、特別加入している一人親方などは、特約を付けてはじめて対象になる、という商品もあります。
現場に一人親方やフリーランスが出入りする会社は、いまの契約で「補償される人」がどこまでかを一度確かめておくと、報告の準備と保険の備えをまとめて点検できます。どんな場合に支払われるかは、保険会社や契約ごとに違います。
2027年4月からは、もう一段進みます
改正の仕上げは2027年4月1日です。会社の側と、一人親方などの側の両方に、新しい決まりが加わります。
| 時期 | 主な内容 |
|---|---|
| 2026年4月1日 (施行済み) | 建設業などの元請けが現場全体の安全を管理する対象に、一人親方なども加わる/一人親方なども、安全のルール違反を監督署に申し出られる |
| 2027年1月1日 | 一人親方などの仕事中のけがを、注文者や場所を管理する事業者が監督署へ報告 |
| 2027年4月1日 | 業種を問わず、一定の危険な作業が入り混じる場所を管理する会社に、作業どうしの連絡と調整を義務付け/一人親方や中小企業の社長・役員が社員と同じ場所で働くとき、安全装置のない機械の使用禁止、定期の自主検査、特別教育の受講が罰則付きの義務に |
業種を問わない連絡・調整の義務は、たとえば自社の倉庫で社員が働いているところに、運送の個人事業者がトラックで荷物の積み下ろしに来る、といった場面を想定しています。建設業や製造業だけの話ではなくなる点が、これまでとの大きな違いです。
- 2027年1月1日から、一人親方やフリーランスの仕事中のけが(死亡・4日以上の休業)も監督署への報告の対象になる
- 対象は社員と同じ場所で作業していたときのけが。報告するのは、その場にいるいちばん近い注文者か、場所を管理する事業者
- 中小企業の社長や役員が社員と同じ場所でけがをしたときは、その会社が報告する
- 報告を理由に取引を切るなどの扱いは禁止。罰則はないが、報告は義務
- 報告と賠償の責任は別。本人の補償は特別加入しだい、会社の保険で一人親方がどう扱われるかも契約しだい
出典
- 厚生労働省 労働安全衛生法の改正について
- 厚生労働省 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要(PDF)
- 厚生労働省 改正労働安全衛生法説明会 個人事業者等の安全衛生対策の推進について(PDF)
- 厚生労働省 労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和7年厚生労働省令第120号)(PDF)
- 厚生労働省 個人事業者等の業務上災害の報告に係る規定関係の施行通達(令和8年6月24日付け基発0624第5号)(PDF)
- 厚生労働省 個人事業者等関係の施行通達(令和8年3月30日付け基発0330第1号)(PDF)
- 厚生労働省 個人事業者等の安全衛生対策の推進に係る規定関係の施行通達(令和8年5月26日付け基発0526第1号)(PDF)
- e-Gov法令検索 労働者災害補償保険法施行規則(第46条の16)
- 日本損害保険協会 法人保険とは?企業を守る保険の種類(企業のための保険ナビ)
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報提供です。報告の様式や手続きの細かな運用は、今後の案内で具体化されることがあります。自社が報告する側に当たるかどうかは、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家にご確認ください。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。
「一人親方さんには、よく現場を頼んでいる。でも、その人がけがをしたら、うちの保険はどこまで見てくれるのか。」そう気になったら、業種と、現場に出入りする人の顔ぶれ、いま入っている会社の保険を教えてください。「補償される人」に役員や下請けの方、一人親方が入っているかを、証券を見ながら一緒に確かめます。足りないものがあるかどうかは、そこから考えれば間に合います。