元請けは、下請けの人のケガにも責任を負います|建設業の労災保険は工事ごとに一つ
工事が数次の請負で行われるときは、一つにまとめられます
労働保険の保険料の徴収等に関する法律8条は、建設の事業が数次の請負によって行われるとき、元請負人のみを事業主として取り扱うと定めています。これを「請負事業の一括」といいます。
この結果、下請負人の事業は元請負人が行う事業として扱われ、元請負人は下請負人が使用する労働者を含めて、その工事に従事する労働者について保険料を納める義務を負います。一次下請、二次下請と枝分かれしていても、労災保険の関係は一つの工事に一つ。それが元請けにぶら下がっている、という形です。
※この一括の対象になるのは労災保険に係る保険関係だけです。雇用保険は元請負事業に一括されず、それぞれの会社ごとに扱われます。
災害補償の面でも同じ考え方が置かれています。労働基準法87条は、建設の事業が数次の請負によって行われる場合、災害補償については原則として元請負人を使用者とみなすとしています。
分離するには、認可と規模の要件がいります
下請負事業を元請負事業から切り離して独立させることもできますが、自由にできるわけではありません。厚生労働大臣の認可が必要で、規模の要件もあります。
- 概算保険料が160万円以上
- 請負金額が1億8千万円以上
中小規模の工事ではこの要件に届かないことが多いので、実務上は元請けが一括して負う形が原則と考えておくのが現実的です。
安全管理のほうにも、元請けの役割があります
労働安全衛生法15条は、特定元方事業者(建設業などで下請負人を使用する元請負人)に、統括安全衛生責任者の選任を義務づけています。元請けの労働者と関係請負人の労働者が同じ場所で作業することによって生じる労働災害を防ぐため、統括して管理する役割です。
選任が必要になるのは、元請けと下請けの労働者の合計が常時50人以上の場合(ずい道等の建設や橋梁の建設など一定の仕事では30人以上)です。人数が届かない現場でも、同じ場所で複数の会社が作業する以上、誰が全体を見ているのかを決めておかないと事故は起きます。
労災が下りても、元請けの責任は残ることがあります
ここが実務でいちばん誤解されるところです。労災保険から給付が出たとしても、それで話が終わるとは限りません。安全配慮が足りなかったと判断されれば、被災した本人やご遺族から、労災でまかなわれない部分について損害賠償を求められることがあります。慰謝料は労災保険の給付には含まれていません。
そして請求される相手は、雇用主である下請けだけとは限りません。現場を統括していた元請けにも向かいます。この部分をどう備えるかが、建設業の保険の中心にある話です。
建設業の労災保険は、数次の請負であれば元請負人に一括され、下請けの労働者も含めて元請けが保険料を納めます。災害補償についても、労基法87条で原則として元請負人が使用者とみなされます。分離には大臣の認可と規模の要件が要るため、中小規模の工事ではまず一括と考えるのが現実的です。そして労災が下りても、安全配慮義務にもとづく賠償の責任は別に残りえます。
出典
- e-Gov法令検索 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(第8条 請負事業の一括)
- e-Gov法令検索 労働基準法(第87条 請負事業に関する例外)
- e-Gov法令検索 労働安全衛生法(第15条 統括安全衛生責任者)
※本記事は2026年9月時点の一般的な情報提供です。請負事業の一括や分離の可否、統括安全衛生責任者の選任義務の有無は、工事の内容や規模によって判断が変わります。実際のご対応は所轄の労働基準監督署および労務の専門家にご確認ください。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。
「元請けとして、どこまで見ておけばいいのか」というご相談をよくいただきます。現場の体制と、いま入っている保険がどこまでカバーしているかを突き合わせると、抜けている部分がはっきりします。まずは証券を拝見するところからお手伝いします。