カスハラ対策の義務化は2026年10月1日から|指針が求める5つの措置
いつから、何が変わるのか
2025年(令和7年)6月11日、労働施策総合推進法などを改正する法律(令和7年法律第63号)が公布されました。この改正で、カスタマーハラスメントを防止するため、事業主に雇用管理上必要な措置を義務づけることになりました。施行は2026年(令和8年)10月1日です。
あわせて、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置も同じ日から義務化されます。措置の中身を示す指針も告示されました(令和8年厚生労働省告示第51号)。
なお、同じ改正のなかで、職場における治療と就業の両立を促進するために必要な措置を講じる努力義務も設けられ、こちらは2026年4月1日から施行されています。
「カスハラ」の定義は、3つの要素すべてを満たすもの
指針は、職場におけるカスタマーハラスメントを次のように定義しています。
- 職場において行われる顧客等の言動であって
- その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるもの
大事なのは、指針が明確に線を引いていることです。顧客等からの苦情のすべてがカスハラに当たるわけではありません。客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであって、カスハラには当たらないとされています。
また、障害のある方が、障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないよう求めること、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体も、カスハラには当たりません。この点は指針にはっきり書かれています。
「顧客等」の範囲は、思ったより広い
指針が挙げる「顧客等」には、いまの顧客だけでなく今後商品を購入したりサービスを利用したりする可能性がある潜在的な顧客も含まれます。ほかにも、取引の相手方(今後取引する可能性のある者を含む)、施設の利用者とその家族、施設の近隣住民、取引先の担当者、契約締結に向けた交渉の担当者などが例示されています。
店頭での対面だけでなく、電話やSNSなどインターネット上で行われるものも含まれます。
どこからがカスハラ? 指針が挙げる典型例
「言いがかりなのか、正当な苦情なのか」——この線引きが、現場ではいちばん難しいところです。指針は、①言動の内容が許容される範囲を超えるものと、②手段や態様が許容される範囲を超えるものの、2つの切り口で典型例を挙げています。
| 切り口 | 典型例 |
|---|---|
| 言動の内容が超えている | そもそも要求に理由がない、または商品・サービス等と全く関係のない要求/契約等により想定しているサービスを著しく超える要求/対応が著しく困難な、または対応が不可能な要求/不当な損害賠償要求 |
| 手段や態様が超えている | 身体的な攻撃(暴行、傷害等)/精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)/威圧的な言動/継続的、執拗な言動/拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) |
内容と手段の一方だけが範囲を超えている場合でも、カスハラに該当し得ます。指針にそう明記されています。「要求自体は筋が通っているから」と手段の悪質さを見逃さない、ということです。
求められる措置は5つ|1つはカスハラ固有で、パワハラ対策の流用では足りない
| 区分 | 具体的にやること |
|---|---|
| ①②方針の明確化と周知・啓発 | カスハラには毅然とした態度で対応し労働者を保護する旨の方針を明確化して周知・啓発する。あわせてあらかじめ定めた対処の内容(管理監督者に指示を仰ぐ/可能な限り一人で対応させない/犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する/本社・本部へ情報共有し指示を仰ぐ 等)も労働者に周知する |
| ③④相談体制の整備 | 相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知する。相談窓口の担当者が適切に対応できるようにする |
| ⑤⑥⑦事後の迅速かつ適切な対応 | 事実関係を迅速かつ正確に確認する。被害者への配慮のための措置を適正に行う。再発防止に向けた措置を講じる |
| ⑧悪質な事案を抑止するための措置 ここがカスハラ固有 | 特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、その対処を行うことができる体制を整備する |
| ⑨⑩そのほか併せて講ずべき措置 | 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じて周知する。相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、周知・啓発する |
①〜⑦と⑨⑩は、パワハラ防止措置とおおむね同じ枠組みです。既存の相談窓口と就業規則に、顧客等からの言動を足す形で組み立てるのが現実的だと思います。ただし⑧だけは、他のハラスメントで求められる措置にはない項目です(厚生労働省のリーフレットにもその旨が明記されています)。「悪質な相手にはどこで線を引き、誰が、何をするのか」を事前に決めて、現場に伝えておくところまでが求められます。パワハラの規程をそのまま流用しただけでは、ここが埋まりません。
労災の場面でも、すでに出来事として扱われています
厚生労働省が令和8年7月15日に公表した令和7年度「過労死等の労災補償状況」では、精神障害に関する労災の請求件数が4,958件、支給決定件数が1,082件となり、支給決定件数は7年連続で増えています。顧客等からの著しい迷惑行為は、精神障害の労災認定における出来事のひとつとして扱われています。
つまりこれは、接客の心構えの話ではなく、労働災害と法的責任の話になってきているということです。対応を現場任せにしていると、体調を崩した従業員から安全配慮義務を問われる場面も出てきます。
カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になる日は、2026年(令和8年)10月1日。労働者を1人でも雇っていれば対象で、猶予はありません。求められるのは、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速な対応、悪質な事案を抑止するための措置、プライバシー保護など併せて講ずべき措置の5つ。このうち悪質な事案への対処方針だけは、パワハラ対策にはない項目です。ただし正当な申入れはカスハラに当たりません。まずは自社の相談窓口と就業規則に顧客等からの言動を組み込み、そのうえで「どこからは通報・退去要請に切り替えるか」を決めておくところから始めてください。
出典
- 厚生労働省 職場におけるハラスメントの防止のために
- 厚生労働省 リーフレット(詳細版)「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」(PDF)
厚生労働省 職場におけるカスタマーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針について(PDF・令和8年3月3日) - 厚生労働省 令和7年度「過労死等の労災補償状況」を公表します(令和8年7月15日)
- 政府広報オンライン カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容
※本記事は2026年9月時点の一般的な情報提供です(最終更新: 2026-09-19/講ずべき措置を厚生労働省リーフレットの5区分・10項目に合わせて訂正し、典型例を追加)。個別の言動がカスタマーハラスメントに該当するかは、目的、経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮して判断されます。実際の社内規程の整備は労務の専門家にご相談ください。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。
「窓口を作れと言われても、うちの規模でどこまでやればいいのか」というのが本音だと思います。同じ規模の会社がどう組み立てているかも含めて、現場の負担にならない形を一緒に考えます。まずはいまの就業規則を見せていただくところからで結構です。