106万円の壁はなくなっても、130万円の壁は残ります|社会保険の加入拡大で変わること、変わらないこと
「11月と12月はシフトを減らします」。年末が近づくと、パートで働く方からよく聞く言葉です。106万円を超えないように、と。その106万円のもとになっている条件が、2026年10月になくなる予定になりました。ただし、壁と呼ばれているものは一つではありません。なくなるほうと、そのまま残るほうがあります。
「年収の壁」は、106万円と130万円の2つがあります
ひとまとめに語られがちですが、この2つは別の制度の話です。106万円は「勤め先の社会保険に自分で入るかどうか」の線、130万円は「配偶者の扶養から外れるかどうか」の線です。106万円という数字自体は法律に書かれておらず、加入条件のひとつである「所定内賃金が月額8.8万円以上」を年収に直した通称です。
| 106万円の壁 | 130万円の壁 | |
|---|---|---|
| 何の線か | 勤め先の健康保険・厚生年金に自分で入る条件 | 配偶者の扶養(第3号被保険者)から外れる基準 |
| 中身 | 所定内賃金が月額8.8万円以上(賃金要件) | 年収130万円以上 |
| 超えるとどうなる | 会社と折半で保険料を払い、勤め先の社会保険に入る | 自分で国民年金・国民健康保険の保険料を払う |
| 2026年10月以降 | 撤廃される予定 | そのまま残る |
2026年10月、条件から「月8.8万円」が外れる予定です
2026年9月の時点で、パートやアルバイトが勤め先の健康保険・厚生年金に入るのは、正社員の4分の3未満の時間で働く人のうち、次の条件をすべて満たす人です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8.8万円以上(賃金要件)
- 勤め先の従業員数が51人以上(企業規模要件)
- 学生ではないこと
※2か月以内の期間を決めて雇われる人などは、そもそも加入の対象から外れます。逆に、正社員の4分の3以上の時間で働いている人は、この条件に関係なく以前から加入対象です。
このうち2つ目の「月額8.8万円以上」がなくなります。理由は最低賃金の上昇です。令和7年度の地域別最低賃金が全都道府県で時給1,016円を超えたため、時給1,016円以上の地域で週20時間働けば、月額賃金は自動的に8.8万円以上になります。条件として意味をなさなくなった、というのが厚生労働省の説明です。
法律上の施行日は「公布から3年以内で政令が定める日」とされています。厚生労働省も日本年金機構も、令和8年(2026年)10月に撤廃する予定と書いていますが、正式な日付は政令で決まります。勤め先から案内が届いたら、日付をご確認ください。
賃金の条件が外れると、分かれ目は「週20時間以上働くかどうか」ひとつになります。時給がいくらか、月にいくら稼いだかではなく、雇用契約で決めた1週間の労働時間で決まります。残業でたまたま20時間を超えた週があっても、それだけで加入することにはなりません。ただし、週20時間以上で働く状態が2か月を超えて続くようなら、加入の対象になることがあります。
会社の規模の条件は、10年かけて外れていきます
賃金の条件がなくなっても、当分は「従業員51人以上の会社」という条件が残ります。ここも段階的に下がっていき、最後は撤廃されます。
| 時期 | 対象になる会社の規模 |
|---|---|
| 2024年10月から | 厚生年金の被保険者が51人以上 |
| 2027年10月から | 36人以上 |
| 2029年10月から | 21人以上 |
| 2032年10月から | 11人以上 |
| 2035年10月から | 規模の条件は撤廃 |
※人数は、法人の場合は同じ法人番号のすべての事業所を合計して数えます。なお、規模の条件を満たさない会社でも、働く人の2分の1以上の同意があれば加入対象になれます。
あわせて2029年10月からは、常時5人以上を雇う個人の事業所が、業種を問わず対象になります。それまでは、物の製造や販売、医療など17の業種に限られていて、飲食店や宿泊業などは外れていました。ただし施行の時点ですでにある事業所は、当分の間は対象外です。
従業員50人以下の会社などで新しく加入対象になり、標準報酬月額が12.6万円以下の人が対象です。事業主が希望すれば、労使折半より会社の負担割合を増やして、本人の負担を軽くできます。期間は3年間で、会社が上乗せした分は制度全体で支えるしくみです。
130万円の壁は、そのまま残ります
ここが見落とされやすいところです。週20時間未満で働いていても、年収が130万円以上になると配偶者の扶養から外れ、国民年金と国民健康保険の保険料が発生します。これは今回の改正で変わりません。厚生労働省も、この点をあらためて案内しています。
ただし、人手不足で臨時に残業が増えたような場合には、事業主の証明によって引き続き扶養が認められる特例があります。「今年だけ超えてしまった」というときは、扶養している側の勤め先に相談してみてください。
保険料は増えます。ただ、増えるのは負担だけではありません
扶養から外れる話は、手取りが減るという面ばかりが取り上げられます。けれど社会保険に入るというのは、公的な保障を自分の名前で持つということでもあります。とくに、扶養に入っているあいだは受け取れないものがあります。
- 傷病手当金:仕事以外の病気やケガで会社を連続3日休むと、4日目から支給されます。1日あたりの額は、支給が始まる日より前の12か月の標準報酬月額を平均した額を30で割り、その3分の2。支給開始から通算1年6か月まで受け取れます
- 出産手当金:出産日以前42日(双子などは98日)から出産の翌日以後56日までのうち、会社を休んだ期間が対象です
- 老齢厚生年金:基礎年金に上乗せされ、亡くなるまで受け取れます
- 障害厚生年金:障害基礎年金は1級と2級までですが、障害厚生年金には3級と、一時金の障害手当金があります
- 遺族厚生年金:万一のとき、遺された家族への年金が上乗せされます
出産育児一時金は、扶養に入っている家族が出産したときも支給されます。一方、出産手当金は自分が健康保険に入っている人の給付です。また、国民健康保険では傷病手当金は任意給付とされていて、一般には支給されません(個人事業と法人で違う3つのことでも触れています)。休んだときにお金が出るかどうかは、どの制度に入っているかで変わります。
公的な保障が厚くなると、民間の保険で用意しておくべき金額は変わります。たとえば働けない期間の備えを考えるとき、傷病手当金があるかないかで、必要な保障の期間も金額も違ってきます(働けなくなったら収入はどうなる?)。加入する制度が変わる年は、いまの保険を見直す合図でもあります。
2026年10月に、106万円の壁のもとになっている「月額8.8万円」の条件がなくなる予定です。これからの分かれ目は「週20時間以上働くかどうか」。会社の規模の条件は2027年10月から段階的に下がり、2035年10月になくなります。一方で130万円の壁は残ります。保険料の負担は増えますが、傷病手当金や厚生年金など、扶養のままでは持てない保障も同時に増えます。
出典
- 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」
- 厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」(PDF)
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」(改正の概要・施行期日)
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
- 全国健康保険協会「傷病手当金」
- 全国健康保険協会「出産手当金」
- 日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」
※本記事は2026年9月時点の一般的な情報提供です。賃金要件の撤廃時期は政令で定められるため、今後変わる可能性があります。健康保険の給付内容は、加入している健康保険組合等によって異なる場合があります。ご自身の加入や手続きについては、勤め先・年金事務所・ご加入の健康保険にご確認ください。
「扶養を外れたら、いまの保険はどう考えたらいいですか」。働き方が変わる時期に、よくいただくご相談です。公的な保障が増えるぶん、民間の保険は減らせることもあれば、逆に足りない部分がはっきりすることもあります。