水につかった車は、エンジンをかけないでください|冠水・水没と車両保険の「出る・出ない」
アンダーパスに水がたまっているのを見て、「これくらいなら行けそう」と思ったことはありませんか。JAFが実際に車を沈めて確かめたテストがあります。水深30cmと60cmで、結果はきれいに分かれました。
そして、もし車が水につかってしまったら、保険会社に電話するより先に、やってはいけないことがあります。
水深30cmと60cmで、結果は分かれた
JAF(一般社団法人 日本自動車連盟)の「冠水路走行テスト」は、集中豪雨などでアンダーパス(道路の下をくぐる立体交差)が冠水した場面を想定した実験です。前後にスロープを設け、水平部分30mのコースをつくり、セダン(トヨタ・マークⅡ 2,000cc)とSUV(日産・エクストレイル 2,000cc)で走りきれるかを確かめています。
| 条件 | セダン | SUV |
|---|---|---|
| 水深30cm(時速10km・時速30km) | 走りきれた | 走りきれた |
| 水深60cm(時速10km) | 31m地点でエンジン停止 | 走りきれた |
| 水深60cm(時速30km) | ー(未実施) | 10mでエンジン停止 |
ここで注意したいのは、「走りきれた=無事だった」ではないということです。水深30cmでも時速30kmで走ったセダンは、巻き上げる水の量が多くなり、エンジンルームに多量の水が入ったとJAFは記しています。
- エンジンが止まった原因は、エアインテーク(空気の取り入れ口)から水がエンジン内部に入ったためと考えられる
- 同じ水深でも、速度が高くなると巻き上げる水の量が多くなり、エンジンに水が入りやすくなる
- 速度を落とせばある程度まで走れる可能性はあるが、他の要因で止まることもあり、走りきれるとは限らない
- 実際の冠水路は水深も水の中の様子もわからないため、安易に進入せず迂回を考えたほうがよい
電気自動車(EV)とハイブリッド車(HV)で行った別のテストでも、JAFは同じ方向の結論を出しています。EVはモーターこそ止まらなかったものの、複数のシステム故障の警告が表示されました。「エンジンがないから大丈夫」と考えて冠水路に入るのは危険で、HVもエンジンを積んでいる以上、同じリスクがある、というまとめです。
水が引いても、自分でエンジンをかけない
水が引いたあと、いちばん危ないのはここです。国土交通省は「浸水・冠水被害を受けた車両のユーザーの方へ」というページで、水に浸った車両は外観上問題がなさそうな状態でも、感電事故や、電気系統のショート等による車両火災が発生するおそれがあるとして、次の対処を呼びかけています。
- 1 自分でエンジンをかけない。
- 2 使用したい場合には、買い求めた販売店か最寄りの整備工場に相談する。特にハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)は高電圧のバッテリーを搭載しているので、むやみに触らない。
- 3 使用するまでの間、発火するおそれがあるため、バッテリーのマイナス側のターミナルを外す。外したターミナルがバッテリーと接触しないよう、テープなどで覆っておく。
水が引いて路面が乾くと、つい「動くかどうか試したい」と思ってしまいます。その一手間が火災につながることがある、というのが行政と自動車業界に共通した注意喚起です。動かす前に、まず整備のプロに見てもらってください。
保険は出るのか|車両保険の「偶然な事故」
ここからが保険の話です。日本損害保険協会の損害保険Q&A(くるまの保険 問15)は、車両保険を「契約時に特定した自動車が偶然な事故によって損害を受けた場合に保険金を支払う保険」と説明しています。そして、この「偶然な事故」には交通事故だけでなく、衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、盗難、台風、洪水、高潮などが含まれるとしています。
つまり、大雨や台風で車が水につかった損害は、車両保険の守備範囲に入りうるということです。ただ、実際に保険金が出るかどうかは、ご自身の契約の中身で変わります。つまずきやすいのは次の3点です。
- そもそも車両保険を付けているか:対人賠償・対物賠償は相手への賠償のための補償です。自分の車が受けた損害をまかなうのは車両保険なので、付けていなければ水没の修理代は出ません。
- 車両保険の「タイプ」で変わる:損保協会は、補償範囲を限定したタイプほど保険料が安くなると説明し、3つのパターンを例示しています。台風・洪水・高潮は「火災・爆発・盗難等による損害」の区分に含まれるケースがあると注記されており、この区分を補償しない限定タイプでは対象外になりえます。証券の車両保険の種類欄を確認してください。
- 地震・噴火・これらによる津波は原則対象外:問15は「保険金を支払わない主な場合」として、地震・噴火またはこれらによる津波によって生じた損害を挙げています。
3つめは、知っておくと納得がいく線引きです。同じように車が水につかっていても、原因が台風による洪水なのか、地震による津波なのかで結論が変わります。
図の下に添えたとおり、地震・噴火・津波が原因でも、補償する損害を限定しないタイプの車両保険を契約していて車両が全損となった場合など、一定の条件で一定額(50万円など)を扱っている会社もある、と損保協会は補足しています。取り扱いは会社によって違うので、気になる方はご契約の会社か代理店に聞いてみてください。
使っても、等級は「1つ」だけ下がる
車両保険を使うと翌年の保険料が上がる、と身構える方は多いと思います。ただ、水害の場合は下がり幅が小さめです。損保協会 問23は、盗難や台風、洪水、高潮などによって車両保険の保険金を受け取った場合などは、1事故につき1等級下がると説明しています。これを「1等級ダウン事故」といい、あわせて1年間は有事故契約者の低い割引率が適用されます。1年間を無事故で過ごせば、無事故契約者と同じ割引率に戻ります。
ぶつけた事故でよくある3等級ダウンにくらべると、影響は軽いということです(等級のしくみはこちらの記事で詳しく書いています)。
とはいえ、損害が小さいときは判断が要ります。損保協会 問49は、少額の保険金を請求しないほうがよいと言われる理由について、受け取る保険金の額より翌年以降に支払う保険料の割増額のほうが高くなる場合があるためだ、と説明しています。修理の見積もりが出たら、保険を使った場合と使わなかった場合で、翌年からの保険料がどう変わるかを代理店に試算してもらうと迷いが減ります。
大きな災害のときは、手続きの猶予がある
被災した直後は、保険の更新手続きや保険料の払い込みまで手が回りません。そのための決まりごとがあります。日本損害保険協会によれば、災害救助法が適用された地域で契約者が被害を受けた等の場合、各損害保険会社は火災保険・自動車保険・傷害保険などの各種損害保険(自賠責保険を除く)について、次の2つを猶予します。
- 継続契約の締結手続きの猶予:災害救助法の適用日から2か月後の末日までに満期日が到来する継続契約の手続きを猶予
- 保険料の払込猶予:同じく適用日から2か月後の末日までに払い込むべき保険料の払い込みを猶予
- 罹災証明書は原則不要:損害保険の保険金等の請求にあたって、自治体が交付する罹災証明書の提出は原則として求められません
実際の運用も見ておきます。2026年8月13日からの大雨に伴う災害について、損保協会は8月14日付で被災された方へのお知らせを掲載しました。同日時点で災害救助法が適用されたのは千葉県内の市町村で、法の適用日は8月13日、猶予期日は10月末日と案内されています。対象地域はその後追加されることがあるので、最新の一覧は損保協会のお知らせでご確認ください。
もうひとつ、同じお知らせに注意書きがあります。「保険が使える」と言って住宅の修理を勧誘する業者や、保険金の請求を代行する業者とのトラブルが増えている、というものです。車と同じく住まいも被害を受けやすい場面なので、訪問勧誘への向き合い方をまとめた記事もあわせてご覧ください。
- 冠水路には入らない。濁った水は深さがわからず、JAFのテストでも水深60cmではセダンが31mで止まった
- 水につかったら、自分でエンジンをかけない。販売店や整備工場に相談する(国土交通省)
- 台風・洪水・高潮による損害は車両保険の対象になりうる。ただし車両保険を付けているか、タイプが限定型でないかを確認
- 地震・噴火・これらによる津波による損害は、車両保険では原則対象外
- 使った場合の等級ダウンは1つ。小さな損害は、保険料の増加分と見くらべて判断する
出典
- JAF(日本自動車連盟)「冠水路走行テスト(JAFユーザーテスト)」
- JAF(日本自動車連盟)「冠水路走行テスト ~電気自動車(EV)・ハイブリッド車(HV)・ガソリン車で検証~」
- 国土交通省「浸水・冠水被害を受けた車両のユーザーの方へ」
- 日本損害保険協会 損害保険Q&A くるまの保険 問15(車両保険)
- 日本損害保険協会 損害保険Q&A くるまの保険 問23(等級)
- 日本損害保険協会 損害保険Q&A くるまの保険 問49(少額の保険金請求)
- 日本損害保険協会「令和8年8月13日からの大雨に伴う災害により被害を受けられた皆様へ」(2026年8月14日)
※本記事は2026年8月15日時点の一般的な情報提供です。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。車両保険の補償範囲やタイプの区分、地震・噴火・津波に関する取り扱いは保険会社・商品によって異なります。災害救助法の適用地域や猶予期日は今後変わることがあります。
車両保険を付けているか、付けているならどのタイプか。証券を開いてもピンとこない、という声はよくうかがいます。天気が荒れる季節の前に、そこだけでも見ておくと安心です。
売り込みより先に、いまの保険を一つずつ一緒に確認するところから。複数の保険会社をお預かりしている代理店として、お車の使い方やお住まいの地形も伺いながらご相談に乗ります。