社員が寄り道したあとで転んだら労災?|通勤に戻れる5つの用事
- 寄り道をしているあいだのけがは、何のための寄り道でも通勤災害になりません
- 法令で決まった5つの用事(日用品の購入、職業訓練・学校、投票、通院、家族の介護)のために必要最小限だけ寄ったなら、いつもの道に戻ってからは、また通勤として扱われます
- 映画を見た、飲みに寄ったなど、それ以外の理由なら、いつもの道に戻ったあとも通勤にはなりません
- いつもの道の近くにある公衆トイレを使う、その道沿いの店で飲み物を買う、といったささいなことは、そもそも寄り道に数えません
労災の「通勤」には、条件があります
通勤途中のけがも、仕事中のけが(業務災害)と同じように労災保険の対象です。法律では「通勤災害」と呼びます(労災保険法第7条第1項)。ただし、ここでいう通勤は、家と会社のあいだを動いていれば何でもよい、というものではありません。条件は次の3つです。
- 仕事に就くための移動:その日に働く予定だった、または実際に働いた日の移動。ラッシュを避けた早出や遅刻で時間がずれてもかまいません
- 決まった区間の移動:家と職場の往復のほか、掛け持ちの職場から職場への移動、単身赴任先と家族の住む家とのあいだ(一定の条件つき)も入ります
- 合理的な経路と方法:使える道が複数あればどれでもよく、工事などでその日に回り道をした道も含まれます。理由もなく大きく遠回りした道は外れます
反対に、会社が用意した専用の送迎バスで出退勤する移動や、休日に緊急の呼び出しを受けて駆けつける移動は、通勤ではなく仕事中(業務災害)として扱われます(東京労働局)。
寄り道は「逸脱」と「中断」。そのあとの移動も通勤から外れます
法律は、寄り道を2つに分けています。いつもの道から外れて、仕事とも通勤とも関係のない場所へ向かうのが「逸脱」。道の上で、通勤と関係のないことをするのが「中断」です。石川労働局と沖縄労働局は、通勤の途中で映画館に入ることや、バーでお酒を飲むことを例に挙げています。
逸脱や中断をすると、その最中も、そのあとの移動も通勤になりません(労災保険法第7条第3項)。映画を見終えて、いつもの道に戻ってから転んでも、通勤災害にはならないということです。
ただし、ささいなことは寄り道に数えません。東京労働局と沖縄労働局は、いつもの道の近くにある公衆トイレを使う、その道沿いの店でたばこやジュースを買う、といった行為は逸脱・中断にならないと説明しています。
5つの用事なら、いつもの道に戻ってからは通勤です
「そのあとも通勤にならない」には例外があります。寄り道が日常生活に必要な用事のためで、やむを得ず最小限で済ませたものなら、いつもの道に戻ってからは、また通勤として扱われます(労災保険法第7条第3項ただし書き)。寄り道をしているあいだは、この場合も対象外です。対象になる用事は、厚生労働省令で次の5つに決められています(労災保険法施行規則第8条)。
- 日用品の購入など
- 職業訓練や学校での教育など、仕事の力をつけるための学び
- 選挙の投票など
- 病院や診療所での診察・治療など
- 要介護状態にある家族の介護(続けて、またはくり返し行っているもの)。家族は配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、配偶者の父母
- 寄り道の最中:店の中や、店へ行き来する脇道でのけがは、5つの用事でも通勤災害になりません
- 最小限を超えたとき:法律は「最小限度」であることを条件にしています。用事が済んだあとも長く過ごせば、この条件から外れるおそれがあります
会社から見た、仕事中のけがとの3つの違い
通勤災害でも、出る給付は仕事中のけがとほぼ同じです。治療費は労災保険から出て、仕事を休んだ4日目からは、給付基礎日額(原則として直前3か月の賃金を1日あたりにならした額)の60%の休業給付と、20%の特別支給金が出ます。違いが出るのは、会社の負担です。
| 仕事中のけが(業務災害) | 通勤中のけが(通勤災害) | |
|---|---|---|
| 休んだ最初の3日間 | 会社が平均賃金の60%を補償する(労働基準法第76条) | 会社の補償責任についての法令上の定めはない(厚生労働省) |
| 治療の自己負担 | なし | 初回の休業給付から200円を差し引く(相手のいる交通事故などは除く) |
| 労災保険料(メリット制) | 実績に数える | 数えない |
200円は、通勤災害で治療を受けて仕事も休んだ人が1回だけ負担する「一部負担金」です(労災保険法第31条第2項、同法施行規則第44条の2)。休まなかった人は負担しません。メリット制のしくみは「労災を使うと保険料が上がる?」で説明しています。
一方、手続きの手伝いは仕事中のけがと変わりません。労災の請求書に会社の証明を求められたら、すみやかに証明する義務があります(労災保険法施行規則第23条)。通勤途中の交通事故のように相手がいるときは、本人が相手の氏名や被害の状況を労働基準監督署に届け出ます(同規則第22条)。
寄り道のあとのけがを、会社だけで「労災ではない」と決めてしまわないことも大切です。給付を出すかどうかを決めるのは労働基準監督署です。本人から「何のために寄ったか」「転んだのは寄り道の最中か、いつもの道に戻ってからか」の2点を聞いておくと、相談がすんなり進みます。
通勤災害にならなかったけがは、どこで補う?
寄り道の最中のけがや、飲みに寄った帰りのけがのように、通勤災害にならなかったときは、私生活のけがと同じ扱いになります。健康保険は仕事中のけが(業務災害)以外を対象にしているので(健康保険法第1条)、治療は健康保険で受けられます。会社の健康保険に入っている従業員なら、仕事を休んで4日目からは傷病手当金の対象にもなります(同法第99条。くわしくは「病気で長く休む社員が出たとき」)。
交通事故なら、相手の自動車保険からの賠償が中心です。歩行中や自転車で車にはねられたときは、自分や家族の自動車保険の人身傷害から保険金が出る契約もあります(くわしくは「歩いていてはねられたとき」)。
会社として確かめておきたいのは、上乗せの備えです。労災保険の上乗せ補償(業務災害の保険)に入っている会社でも、通勤中のけがをどこまで対象にするかは契約ごとに決まっています。「通勤中も会社の保険が出る」と従業員に伝える前に、証券や重要事項説明書で範囲を見ておくと安心です。
出典
- e-Gov法令検索 労働者災害補償保険法 第7条・第31条
- e-Gov法令検索 労働者災害補償保険法施行規則 第8条・第22条・第23条・第44条の2
- 東京労働局 通勤災害について
- 石川労働局 通勤災害とは
- 沖縄労働局 「往復の経路を逸脱し、又は中断した場合」とは
- 厚生労働省 休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続(パンフレット)
- 厚生労働省 労災保険のメリット制について(PDF)
- e-Gov法令検索 労働基準法 第76条
- e-Gov法令検索 健康保険法 第1条・第99条
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報提供です。通勤災害にあたるかどうかは、個別の事情をもとに労働基準監督署が判断します。具体的なケースは、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家にご確認ください。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。
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