高年齢者の労災防止は2026年4月から努力義務|指針の5つの柱
休業4日以上の労災、3割は60歳以上です
厚生労働省が2026年(令和8年)5月27日に公表した令和7年の労働災害発生状況によると、仕事中のけがや病気で4日以上休んだ人(休業4日以上の死傷者)は135,333人でした。年齢別の表から60歳以上を足し上げると42,318人。全体のおよそ31%にあたります。
| 年齢 | 休業4日以上の死傷者(令和7年) |
|---|---|
| 60〜64歳 | 16,855人 |
| 65〜69歳 | 12,081人 |
| 70〜74歳 | 8,231人 |
| 75歳以上 | 5,151人 |
| 60歳以上の合計 | 42,318人 |
厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」別表7(全産業)の年齢別の数字を、当社で合計しました。全年齢の合計は135,333人です。
目を引くのは、働いている人の年齢構成と比べたときです。厚生労働省の資料では、雇用者全体に占める60歳以上の割合が19.1%なのに対し、休業4日以上の死傷者に占める割合は30.0%でした(どちらも令和6年)。働く人の2割に満たない年代が、けがをした人の3割を占めている計算になります。
多いのは転倒。しかも、休みが長引きます
令和7年の労災を事故の型で見ると、いちばん多いのは「転倒」で37,195人でした。これは全年齢の数字ですが、年齢による差がはっきり出るのもこの転倒です。
厚生労働省の資料に、働いた時間100万時間あたりのけがの件数(度数率)を年齢別に比べたグラフがあります。「転倒による骨折等」では、60歳以上の女性は20代の女性の約19.5倍。「墜落・転落」でも、60歳以上の男性は20代の男性の約3.6倍でした(いずれも令和6年)。
もう一つの違いは、休む期間です。同じ資料で休業の見込み期間を年齢別に見ると、年齢が上がるほど長くなっています。グラフを読むと、1か月以上休む見込みの人は20代では4割に届きませんが、70歳以上では6割を超えています。
件数が多いだけではありません。1件ごとの重さも変わってきます。
2026年4月1日から、会社の「努力義務」に
こうした状況を受けて、2025年(令和7年)に労働安全衛生法が改正されました(令和7年法律第33号)。新しく加わった第62条の2は、事業者に対し、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善や作業の管理など、労働災害を防ぐために必要な措置を講じるよう努めることを求めています。施行は2026年(令和8年)4月1日です。
もともとある第62条は、中高年齢者などを心身の条件に応じて適正に配置するよう努める、という内容です。新しい第62条の2で、職場の環境や仕事の進め方にまで範囲が広がりました。
同じ条文にもとづき、国は「高年齢者の労働災害防止のための指針」を2026年2月10日に公表し、4月1日から適用しています。2020年に作られた「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)は、この指針の適用とともに廃止されました。
努力義務なので、守らなかったことへの罰則はありません。ただ、これとは別に、会社には以前から労働契約法第5条の安全配慮義務があります。従業員が安全に働けるよう必要な配慮をする義務で、年齢に関係なくかかっているものです。
指針が挙げる5つのこと
指針は、事業者が取り組む事項を5つに分けています。全部を一度にそろえる前提ではなく、職場の実情に応じて、国や関係団体の支援も使いながら進めるよう求めています。
| 項目 | 主な中身 |
|---|---|
| 1.体制をつくる | 経営トップが方針を示し、担当を決める。高年齢者に起きやすい事故を洗い出して、手をつける順番を決める(リスクアセスメント) |
| 2.職場環境を直す | 体の衰えを設備で補う。滑りやすい床には滑りにくい素材を使い、なくせない段差は表示で注意をうながす。作業のスピードや姿勢、重い物の扱い方を見直す |
| 3.健康と体力を知る | 雇入れ時と定期の健康診断を確実に行う。体力チェックを続けて行うことが望ましい、とされている |
| 4.状態に合わせて働いてもらう | 必要に応じて労働時間や作業を見直す(本人とよく話し合ったうえで)。治療と仕事の両立にも取り組む |
| 5.教える | 作業とそのリスクを、時間をかけて教える。再雇用などで経験のない仕事に就く人には、特にていねいに。管理監督者にも教育を行う |
- 安全衛生委員会がない職場は、働く人の意見を聞く機会を通じて、労使で話し合う
- 産業医がいない職場は、地域産業保健センターなど外部の機関を使う(50人未満の事業場向けの窓口があります)
- 中小企業向けの補助制度(エイジフレンドリー補助金)もあります。対象や募集期間は年度ごとに変わるため、厚生労働省のページで確認してください
それでも起きたとき、労災保険の外に残るもの
労災保険から出る休業の補償は、4日目からの8割です(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)。残りの2割と慰謝料は労災保険の外で、最初の3日間は会社が平均賃金の60%を補償します(労働基準法第76条)。会社の配慮が足りなかったと判断されれば、安全配慮義務違反として、こうした部分の賠償を求められることがあります(くわしくは「労災が下りても、給料の全部は戻りません」)。
休みが長くなるほど、この外側の金額も大きくなります。
ここに備えるのが、労災保険の上乗せ補償や、使用者賠償責任を対象にした保険です。ただ、保険は起きたあとの手当てで、けがそのものを減らすのは指針にある日々の取り組みのほうです。どちらか一方ではなく、両方で考えるのが現実的です。
- 令和7年、休業4日以上の労災でけがをした人の約31%(42,318人)が60歳以上。多いのは転倒で、休業も長引きやすい
- 2026年(令和8年)4月1日から、高年齢者の労災防止は会社の努力義務(労働安全衛生法第62条の2)。罰則はないが、安全配慮義務は以前からある
- 指針の5項目は、体制・職場環境・健康と体力の把握・状態に応じた対応・教育
- 休業が長いほど、労災保険で埋まらない部分も大きくなる。防ぐ取り組みと、起きたあとの備えの両方で
出典
- 厚生労働省 令和7年の労働災害発生状況を公表
- 厚生労働省 令和7年における労働災害発生状況(確定値)(PDF・別表7)
- 厚生労働省 高年齢者の労働災害防止のための指針の策定について(資料・PDF)
- 厚生労働省 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要(PDF)
- 厚生労働省 「高年齢者の労働災害防止のための指針」について(公示)
- 厚生労働省 高年齢者の労働災害防止のための指針(PDF)
- 厚生労働省 高年齢労働者の安全衛生対策について
- e-Gov法令検索 労働安全衛生法 第62条・第62条の2
- e-Gov法令検索 労働契約法 第5条
- e-Gov法令検索 労働者災害補償保険法 第14条
- e-Gov法令検索 労働者災害補償保険特別支給金支給規則 第3条
- e-Gov法令検索 労働基準法 第76条
※本記事は2026年9月時点の一般的な情報提供です。統計の数字は公表時点のもので、毎年更新されます。休業見込み期間の割合は厚生労働省資料のグラフから読み取ったおおよその値です。指針にもとづく具体的な取り組みや個別の労務管理は、労働基準監督署や専門家にご相談ください。補償内容やご加入の判断は、各保険会社の契約概要・重要事項説明書等を必ずご確認ください。
「指針は読んだけれど、うちのような小さな現場で何から手をつければいいのか。」そう感じるのは自然なことです。60代の方が何人いて、どんな作業をしているか。それをうかがえば、けがが起きたときに労災保険の外に出る部分がどのくらいあるかを、一緒に確かめられます。保険の話より先に、いまの現場で起きやすいけがを一つずつ見るところから。